これから本格的な夏を迎えると、特に気をつけたいのが熱中症です。レジャー施設や家の中など、特別な場所でなくても発症する可能性があるにもかかわらず、年間1千人もの人が亡くなることがあるのをご存じでしょうか。たかが熱中症と軽視するのは禁物。きちんとした知識を持って対応、予防することが必要です。

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 それでは、まず熱中症が起こるメカニズムを説明しましょう。

 気温が高いと人は汗をかきます。これは汗が蒸発する際の気化熱によって体温を下げようとする働きなのですが、外気温と湿度が高いと、汗が蒸発せず、熱が体内にたまってしまいます。この状態が熱中症で、症状が進むと失神やけいれん、意識障害などを引き起こします。しっかりとした知識をもって対策や対処をすれば、最悪の事態は防げるのですが、対応を誤ると先述の通り死に至ることも珍しくありません。

 しかし、残念ながら、日本ではまだまだ熱中症に対して、きちんとした認識が広まっているとはいえないようです。そんな現実を物語る一つの例が「熱中症は高齢者ばかりがかかるもの」という誤解です。

 下のグラフを見てください。これは熱中症で救急搬送された人の割合を示したものですが、熱中症は決して高齢の人だけが発症するものではなく、年齢にかかわらず誰でもなり得ることが分かります。

 




写真・図版




 夏の暑さで、気持ちが悪くなったり、めまいが起きたりしたことは、誰でも1度は経験があるのではないでしょうか? ほとんどの人は「こんなのたいしたことはない」と気にしないことが多いのではないかと思いますが、実はこれ、立派な熱中症の症状なのです。そのまま水分をとらなかったり、激しい運動などを続けてしまったりすると、重症化する恐れがあります。学生の部活動などでは、少し気分が悪いくらいでは「休みたい」とは言い出しにくい雰囲気がありますが、そのまま運動を続けるのは非常に危険です。少しでも「おかしいな?」と思ったら、無理をせずに適切な処置を行うことが必要です。


 手足のしびれやめまい、立ちくらみなどの軽い症状なら、涼しいところで一休みし、失われた水分と塩分を補給します。さらに頭痛や吐き気があれば、これに加え、衣服をゆるめ、濡れタオルや氷嚢(ひょうのう)などを使って、からだを冷やしてください。意識がなかったり、からだが痙攣(けいれん)したりしている状態なら、すぐに救急車を呼びましょう。

 


 では、熱中症を予防するためには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?

 まずはこまめな水分補給を心がけることです。のどの渇きを感じた時点で、細胞はすでに脱水症状を起こしています。そうならないように、渇きを感じていなくても100〜200mlずつこまめに水分をとるようにします。

 また、長時間の運動時には、市販のスポーツドリンクを水で2倍に薄めたもので、水分とミネラル分を補給するのがおすすめです。水で薄めるのは糖分を抑えて体液より浸透圧を低くし、吸収しやすくするため。逆に糖分の多い炭酸飲料などは飲まない方がよいと思います。

 そして、一番の予防法は熱中症になりやすい環境下に身をおかないことに尽きます。

 

 熱中症になりやすいかどうかの判断基準の一つに「暑さ指数(WBGT)」というものがあります。これは暑さ寒さに関する環境因子である気温、湿度、輻射(ふくしゃ)熱(直射日光など)から算出される指標で、熱中症を予防することを目的として米国で考案されたもの。

 WBGTが31度以上の日は、すべての生活活動で熱中症が起こる危険性があるため、できるだけ外出を避け、涼しい室内に移動することが推奨されています。特に高齢の人は注意が必要な状態です。また、28度以上の場合も外出時は炎天下を避け、室温の上昇に注意する必要があります。


 WBGTは環境省の熱中症予防情報サイトなどでも確認できます。しかし、輻射熱などは環境によって異なるのであくまで参考値として捉えてください。きちんとした値を知るにはWBGT測定器を活用するのが一番ですが、個人で持っている人は少ないかと思います。

 しかし、屋内外を問わず、少なくとも人が集まる場所や施設の管理者は、測定器を設置し、その日の熱中症の危険度を把握した上で来場者に注意を促すなどの対策を行うべきだと考えています。なお、市販されているWBGT測定器にはさまざまなものがありますが、「JIS B 7922」規格に準拠したものを選べば安心です。

 

 熱中症は室内にいる際や就寝中にも起こります。過度な節電でからだを壊してしまっては元も子もありません。適度にエアコンや扇風機を使うようにしてください。そして、日ごろからバランスのよい食事をとり、疲労をためず、体調を整えておくことも大切です。


引用元:
熱中症に気をつけて(朝日新聞)