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 「不妊」とは、避妊せずに普通の夫婦生活を営み、2年間妊娠しないことを指す。およそ6組に1組が不妊治療を受けているといわれる。一般的に不妊治療は、毎月の排卵日を特定してその日に性交を行うタイミング法。それから精子を子宮に注入する人工授精、体外で卵子と精子を受精させる体外受精、顕微授精と段階を踏む。個人差はあるが、タイミング法を6回、人工授精6回、体外受精を6回と進むのが基本だとされる。

 月間670万人以上が利用するWEBメディア「こそだてハック」が不妊治療経験のある20〜40代の女性約800人に「不妊治療に関するアンケート」(2016年9月)を行ったところ、35才を過ぎて不妊治療により妊娠した人の60%以上の人が体外受精、顕微授精による出産で、40才以上では約80%という調査結果だった。

 一方で、治療を経験した40才以上の80%が「不妊治療をやめようと思った」経験があるという。いちばんの理由は精神的に不安定になったから。

 「不妊治療をする夫婦は治療していることを人に知られたくないと隠している人が多いんです。周囲に相談できない分、煮詰まってしまう。治療が長期化すると、夫婦間のストレスも高まり離婚にいたってしまうケースもなかにはいます」(生殖心理カウンセラーの永井静香さん)

 不妊治療をきっかけに夫婦関係に溝ができる夫婦は多い。ある法律相談サイトには、不妊治療と関連する離婚の相談が後を絶たない。



 「夫は“子供ができなくても夫婦ふたりでやっていけばいいよ”って。でも私はどうしても、絶対子供が欲しい。私が不妊治療に真剣になるほど、彼は忙しいと言ってあまり帰ってこなくなりました。セックスもない状況ですから、体外受精に踏み切ってはいたのですが…受精卵も残り1つ。子宮に戻して成功しなかったらもう夫婦関係は続かないと思います」(不妊治療3年・37才女性)
「毎月生理が来るたびに女性としてダメ出しされている気分になります。生理予定日に体温が下がるだけで家から出られないくらい落ち込みます。“あぁ、今月もまたリセットしちゃった…”と。気持ちはリセットされず、不安定になるばかりです。自分でも少しおかしいと思うくらい。

 でも夫は自由にお酒を飲んだり、明け方帰ってきたり。クリニックについてきてくれるわけでもありません。子供は欲しいけど、もし子供ができても子育ての協力なんて考えられない」(不妊治療2年・35才女性)

 「体外受精がうまくいったと思ったらダメでした。その最中に彼の浮気がわかりました。まさかこの時期に…。別れる気もないし、なんだか彼を責める気にもなれないんですが、最悪最低の裏切りを受けた気持ちです」(不妊治療5年・42才女性)

 女性の負担が大きい一方で、不妊治療は男性にとってもプレッシャーになる。

 「今日は“やる日”だからちゃんと早めに帰ってきて、と言われて子づくりのための義務にしか思えない。まさに愛情のないセックスです。男としての自信もなくなるし、外に愛情を求めたくなりました。体外受精で精子をとる前には1週間“禁欲”しろと指図される。もう子供はいいから人間的な生活を送りたいと心の底から思いましたよ。子供が授かり本当によかったと心の底から思いますが、妻とは当然セックスレスになりました」(結婚8年・45才男性)



 前出・永井さんが指摘する。

 「セックスが子供を産むための義務的な行為になると、男性は“種馬じゃない”と拒否反応を示す傾向があります。妊娠のために男性ができることが少なく、女性の体についての知識も少ないので、不妊治療の大変さが伝わりにくい。排卵日にセックスを求められることにうんざりして、帰宅恐怖症になる男性もいます」

 お互いの立場を思いやり、たまには「焦らなくても大丈夫だよ」「子供だけが人生じゃないよ」と優しく声をかけあうことが大切と専門家は口をそろえる。


引用元:
不妊治療きっかけに夫婦関係に溝、義務的な行為になることも