生理が始まった日の朝、憂鬱な気持ちで目覚める。おなかが痛い、気持ち悪い、めまいがする…。あまりの苦痛に起きられない。それでも我慢して、仕事に行く−。こんな経験をしている女性は少なくないが、生理休暇の取得率は1%に満たない。社会進出が進む一方で、働く女性の健康は置き去りにされていないだろうか? 他人には打ち明けにくい生理の悩み。生理との付き合い方を考えることで、働き方を見つめ直してみませんか?

理解されないかも…誰にも言わず我慢続けた

 「おなかの下の方がキューッと痛くなり、ひどいときは貧血みたいになって起き上がれなくなる。頭がクラクラして気持ち悪くて、立っていても寝ていても苦しい」

 川崎市の自営業の女性(38)は、思春期の頃から重い生理痛に悩まされてきた。学生の頃は動けなくなり、保健室で過ごすこともよくあった。今は、使い捨てカイロで体を温めたり、マッサージしたりしてつらい症状を少しでも和らげている。

 大学卒業後の就職先では、残業も珍しくなかった。立ち仕事の日に生理が重なっても、上司に「生理がつらく、立っているのが苦痛だ」とは言えなかった。生理の日は周囲に気付かれるほどテンションが低い。同僚から「大丈夫?」と声をかけられたときには「ちょっと貧血気味で」とごまかした。鎮痛剤を飲み、時計を見ながら「いつ効いてくるかな」と苦痛をこらえ、ひたすら時間の経過を待つ数日間。どうしても出勤できないほど、つらいときは「有給休暇(年休)」を取得した。「生理休暇」というモノが世の中に存在することは知っていたが、利用しようとは思わなかった。勤め先でどのように運用されていたのかも、確認したことがなかったためだ。

 女性は「ほかの人も同じくらいつらいけど、言わないだけかもしれないし、比較できないから。同性でも軽い人だったら理解してもらえないかもしれないと思ったり…。大げさにはしたくなかった」と振り返る。

 厚生労働省の雇用均等基本調査によると、平成26年度中に生理休暇を申請した女性従業員は0・9%。1人でも請求者がいた事業所は2・2%で、前回調査(19年度)の5・4%から半減した。連合の関係者は「周囲に言いづらいなどの理由で、(取得理由を説明しなくてもいい)年休を取得しているケースも考えられる」と推測する。

 佐藤製薬が28年、20〜30代の女性会社員を対象に行った意識調査では、仕事に集中できないほどの生理痛を経験したことがあると答えた女性は53・2%に上った。しかし、このうち生理痛で会社を休んだことがある女性は31・1%。多くの女性が苦痛を我慢しながら仕事をしている実態が浮かんだ。

 労働政策などに詳しい第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部の的場康子上席主任研究員は、「生理中の女性を守ることは、不妊を防ぐことにもつながる。生理休暇は大切な制度」と強調。その上で、「女性だけでなく男性も働きやすい職場づくりを進める中で、生理などの特定の理由の休暇についても理解のある職場にしていくことが重要だ」と指摘した。
本当のことを伝えた方が働きやすい

 生理休暇を取得したいという意思を、会社にどのように伝えたら良いのか−。実際に伝えた女性と、その上司に話を聞いた。

 ネットメディア「ハフポスト日本版」のエディター、井(い)土(ど)亜梨沙さん(27)は昨年秋、上司である編集長の竹下隆一郎さん(37)に、生理痛について相談した。それまでは生理痛のときには体調不良と伝え、数十分出社を遅らせるなどしてきたが、どうしても起き上がれずに午前休を取ったことがきっかけだった。

 不安や恥ずかしさもあったが、「本当のことを伝えた方が働きやすくなるし、会社にも貢献しやすくなる」と考え、決意した。竹下さんには「仕事のことで相談があります」と切り出し、痛みについて説明した上で、「いつも通り働けなくなってしまう」と打ち明けた。

 竹下さんは井土さんの話を聞くうちに、「『仕事の相談』といわれた理由が分かった」という。「人と話すことが多い仕事で、体調もメンタルも万全に近い状態で臨むことが大切」だからだ。相談を受け、無給だった生理休暇を有給にすることが決まったほか、在宅勤務を認めるなどの対策も講じた。

 竹下さんは「定年も延び、長期間働く社会になっていく。その中で介護や病気、メンタルヘルスなどの課題は必ず出てくる。生理を機に働き方について考えてみるのは、そうした課題に対応する準備にもなり、すごくポジティブなことだと思う」と考えている。

 言いづらさを解消するため、工夫している企業もある。IT関連企業「サイバーエージェント」では、生理痛など女性特有の体調不良や不妊治療の通院などのために月1回、特別休暇を取得できる。このような休暇に加え、通常の有給休暇も含めて、「Female(女性)」の「F」をとった「エフ休」と総称することで、理由を公にしなくてもいいように配慮しているという。
精神論で乗り切ろうとしないで

 「家庭や学校で『生理は病気じゃない』と教えられ、痛みや不快な症状を精神論で乗り切ろうとする女性は多い」。東京都港区の婦人科医院、アヴェニューウィメンズクリニックの福山千代子医師はそう話す。痛みを我慢し続けた結果、内膜症や筋腫など子宮の病気を見逃して悪化させた患者を数多く診てきた。子宮の病気を放置すれば不妊につながる可能性もあるという。

 生理痛との付き合い方について福山医師は「おなかを温めたり、婦人科に通ったり、まずは自分で痛みを緩和する努力をした上で、それでもつらい場合は、体を休めることも大切」と指摘する。

 また、個人差はあるが、排卵後には左図のように、卵胞ホルモンが急激に減少し、黄体ホルモンが増加することで月経前症候群(PMS)に悩む女性も多い。

 福山医師によると、黄体期は妊娠している可能性がある時期なので、体を休めようと眠気が生じたり、栄養を取り込もうとして便秘になったりしやすいのだという。また、ホルモンが大きく変化するときには、精神安定作用のある神経伝達物質「セロトニン」が低下し、抑鬱状態になりやすいという説もある。

 「いずれも生理が始まれば改善するケースが多い。生理に伴う体調で気になることがあれば婦人科に受診を」と話している。

 生理周期 生理開始日を1日目とし、次の生理が始まる前日までを示す。25〜38日が正常とされる。周期の長さには個人差があるが、順調な生理は同じ長さで毎月繰り返される。周期や生理の期間が定まらないのは生理不順とされ、女性ホルモンなどの分泌の乱れが要因とされる。

編集後記

 痛みの感じ方は人それぞれ。同様に、隠したい人も、オープンにしたい人もいるだろう。取材を通して気づいたことは、それは生理だけの問題ではないということだ。さまざまな理由でフルタイムで働けない人たちがいる。それぞれに合った働き方ができるようになればよいと願う。取材した井土さんは、ハフポスト日本版の企画「Ladies Be Open」でも、自らの生理痛を上司に打ち明けたことをつづっている。大切なのは、信頼できる人に自分の気持ちや状態を話すこと。コミュニケーションなのだと、改めて感じさせられた。(佳)


引用元:
取る? 取らない? 生理休暇 (産経新聞)