外来診療をしていると、「私は大丈夫だと思うんですけど、母が(あるいは、父が、義母が、義父が、夫が)『小児科でちゃんと診てもらいなさい』と言うので連れて来ました」というお母さんがいます。ふだんからお子さんの面倒を誰よりも長時間、見ているお母さんが「大丈夫だと思う」と感じているだけあって、まったく問題がないんです。

小児科医ママの大丈夫!子育て

 おじいちゃん・おばあちゃんたちは子どものことが心配だけど十分な知識がないから安心したい、という気持ちで受診を勧めるんですね。そして、お母さんたちはそういったことを言って来る身近な人の意見をむげにできないんです。善意で勧めているとはいえ、わざわざ受診する必要がないと思いながら連れて来るお母さんは大変です。

 こんな事例を見ていたので、ママ・パパになった人たちとおじいちゃん・おばあちゃんになった世代が一緒に子育てについて学ぶことができないかと思い、本を出すことにしました。

「祖父母手帳-もう孫育てで迷わない! 祖父母世代&親世代で常識ってこんなにちがう?」(日本文芸社)

 身近な人たちとは軋轢(あつれき)を生じたくない、でも、ただでさえ大変な育児をより大変にしたくないでしょうから、一方的に「今はこれが正しいのよ」と突きつけるのではなく、楽しく知ってほしいのです。これまでの本のようにどうしてこうなるのか、という医学的根拠から、具体的な対処法まで載せています。また、初めから読んでも、困ったときにその部分だけ読んでもいいようになっています。

 一般にプレママやママになった人は、自分のことなので情報のアンテナ感度は高く、勉強していることが多いものです。すると、古い言い伝えを言う人たちや間違った育児情報を小耳に挟んだ家族と意見が合わなかった場合、齟齬(そご)が出てしまいます。

 私も齟齬というほどではありませんが、第一子のときには周囲の言葉に戸惑いました。医者にしては比較的出産が早く、経験が浅くて新生児に詳しくなかったのです。義理の母が「赤ちゃんは毎日、ウンチが出ている?出ないときにはあなたが便秘薬を飲んでね。繊維のたくさんある野菜を摂るのよ」と言ってくれました。母乳をあげていたので、私が便秘薬を飲むと子どもへは少量しか移行しないから安全かなと思いましたが(実際には薬の効果があるほど移行はしません)、私が繊維質を摂るのはどうなの?と疑問でした。母乳から繊維は出ないと思うけど……と思っても面と向かって反論するほどの確信もなく、純粋な善意で言ってくれる人に言い返すことはできなかったです。

 改めて今考えると、おかしいですね。私の場合は笑い話ですが、状況によってはもっと大きな問題になることもあるでしょう。そういったときに、おかしなアドバイスをした人の不勉強を指摘したり、感情的に反発したりすると関係が悪くなりかねません。一緒に学ぶとともに、「これを言ってはNG」、「こういう言い方をすると協力しやすい」ということを知ってもらえれば、お互いにスムーズにものごとが運ぶでしょう。子どもが小さいうちはママ・パパだけでなく、多くの人が協力して育児をしていく必要があります。身近な人とは特に仲良くしないと別の苦労が増えてしまいます。

 育児はナイーブで個人的な体験です。家庭ごとに事情は違い、外から見た人が簡単にアドバイスしていいものではありません。自分のときはこうしたらうまく行ったということが、別の家庭ではそうではないこともあります。個人的な成功体験を押し付けるだけでは、関係を悪くしてしまうことがあるんです。友人や親戚はもちろん、もっと近い親子だったらなおのこと助言したくなりますね。でも、その前に、今の育児はこうなっている、助言する際にはこういうふうに言ったほうがいい、ということを知ってください。

 

 新しくおじいちゃんになるという方、団塊の世代やそのすぐ下の世代のころは、子育ては女性がするもの、という風潮が今よりも強かったですね。今のパパたちは産休や育休を取り、抱っこ紐で外出するばかりかオムツまで替えるなんて信じられない、と思うかもしれません。でも、ママのお手伝いではなく、育児を一緒にすることは大変だけれど楽しく、家族全員にとって喜ばしいことなんです。ぜひ、理解して後押ししてあげてください。孫に慕われ、ママ・パパに頼りにされるおじいちゃんは素敵です。

 新しくおばあちゃんになるという方、私のときにはこんな便利なものはなかったし、預けるなんていう発想はなかった、と思うことがあるかもしれません。でも、ママたちは甘えているのではなく、必死で今の時代にベストな子育てをしようとしているんです。以前に比べて周囲に乳幼児が少なく、初めて抱っこするのが自分の子どもというママが多い昨今です。昔のママよりも社会経験があったとしても、初めての育児が不安でないわけはありません。そんなときにあなたが優しく教えてくれたり、解決はしてくれなくても話だけでも聞いてくれたりしたらどれだけ気が楽になるでしょう。ご自分が使っていた母子手帳や家族のアルバムを見直したりして、一緒に育児を楽しんでください。

 新しくママ・パパになる方、初めて祖父母になりますという方、お友達のところに赤ちゃんがやってくるという方、ぜひ手に取ってみてください。


引用元:
じいじ・ばあばと子育てするには (朝日新聞)