産科医でジャズピアニストという異色の主人公・鴻鳥サクラが登場する漫画「コウノドリ」は、難しいお産に直面した人々が対峙(たいじ)する、「命の瀬戸際」の医療を描いている。現在も週刊「モーニング」(講談社)に連載中で、2015年にはテレビドラマ(TBS系列全国ネット)にもなって話題をよんだ。アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』で、主人公サクラのモデルとなった荻田和秀医師に、ノンフィクションであるお産の現場と漫画との間(はざま)の話を聞いた。

■漫画・ドラマ化で周産期医療に理解

 周産期医療の現場が漫画やドラマに取り上げられることについて荻田医師は、世間への理解が進めばありがたいという。

「これまで、周産期医療のブラックボックス化している部分、その中で何が起こっているかわからないので理解してもらえず誤解を生むような状況がありました。その部分がつまびらかになって、説明するという意味では、かえってすごくやりやすくなりました」

お産のリスクについて患者に説明する場合も、「『コウノドリ』でもあったように」と説明できるようになった。また、産婦人科のめでたいお産のイメージは「数ある中の氷山の一角」と言い、水面下の巨大な部分がしっかりしていないとすぐにひっくり返ってしまう、と警告する。

「今まではこの水面下の部分が見えてこなかったし、僕らも見せる努力をしてこなかったという反省もあります」

■産婦人科医は未来をつくる仕事

 周産期医療にまつわる社会の縮図として見えてくる事柄、未受診妊婦、喫煙妊婦、人工妊娠中絶といった、漫画にも描かれているテーマについて、荻田医師は、「社会医学であり、予防医学であり、公衆衛生学」と言い切る。

 高校時代は、将来何になりたいかはっきりとしたものがなかった。どちらかというとミュージシャンになりたかったが、自分よりもはるかに才能のある人たちがいることを知り、彼らが「まるで魂を切り売りしているかのように見えて」ミュージシャンは諦めた。父親が産婦人科医だったことや人間が好きだったことから、「高校時代に全く勉強してなかった」が、自然と医学部を目指すようになった。

 1年の浪人生活を経て、香川医科大学へ。

「医学部に入ってもビジョンが全然見えなくて、授業もろくにとらずにバイトしたり、釣りをしに行ったり。無為に過ごしてましたね」

 それでも、見学や実習をするなかで、選択肢の一つに「救急」というのが浮かび上がった。救急は当時もサブスペシャリティーが必要で、脳外科かなと、ぼんやり思っていた。叔父が研究者だったこともあり、研究もやってみたかったという。

 臨床実習が始まり、実際に産婦人科に行き、母子ともに瀕死の状態というのを初めて目の当たりにした。これこそが救急医療の一つだ、と思ったと言う。

「産婦人科は外科的要素も内科的要素もあり、生殖医療や周産期というのは産婦人科にしかない分野。半分モラトリアムのような気持ちで、何に適性があるかわからないからこそ、なんでもできる産婦人科医を選びました」

■全力で奮闘し生の奇跡をつなぐ

 更年期の女性、老年期の女性、生まれたての子どもに至るまで、「産婦人科のお得意様は人類の半分」と語る。ホルモンという切り口でも、女性の人生の曲がり角では必ずお目にかかる仕事で食いっぱぐれはないと思えた。

「何より、産婦人科医はこの先80年を生きる子どもを育むという意味で、未来をつくる大事な仕事」

 そう、胸を張る。出産の現場では母子の命を守るためにいつも全力で奮闘する。95%のお産は問題ないが、残り5%を救うために日々、生の奇跡をつなぐ。主人公サクラの台詞、「ボクらは毎日、奇跡のすぐそばにいるから」は荻田医師の率直な思いでもある。

引用元:
「コウノドリ」のモデル医師が明かす、産婦人科を選んだ意外な理由(ニフティニュース)