668人の治療で検討

乳がんの治療薬は最近も新しい種類のものが開発されています。新薬のリボシクリブで、再発または転移があった乳がんを治療する研究が行われました。



HR陽性進行乳がんに対するリボシクリブ+レトロゾールの効果

リボシクリブの効果と安全性を調べた研究の中間解析が、医学誌『New England Journal of Medicine』に報告されました。

この研究では、再発または転移があった乳がん患者である閉経後の女性で、以前に進行乳がんに対する全身治療(抗がん剤治療)を受けたことがなく、がんの遺伝子検査で「HR陽性・HER2陰性」だった人が対象とされています。

既存の薬であるレトロゾールに加えて新薬のリボシクリブを組み合わせる治療法が検討されました。
対象者はランダムに次の2グループに分けられました。
•リボシクリブとレトロゾールを使って治療するグループ
•偽薬とレトロゾールを使って治療するグループ

668人が対象となりました。効果の指標として、乳がんがさらに進行することなく生存した期間を比較すると決められました。
中間解析の時点では、対象者のうち243人ががんの進行または死亡に至っていました。



HR陽性・HER2陰性とは?

乳がんの薬物療法では、がんの遺伝子検査によって、どの薬が効きやすいタイプなのかを分類したうえで薬を選びます。HRとHER2は薬を選ぶ基準とされています。

HER2陽性の乳がんでは、トラスツズマブなどの治療薬が使えます。この研究で対象とされたHER2陰性の場合には、トラスツズマブのような種類の薬が使えません。

HR陽性の乳がんは、女性ホルモンの影響を受けて増殖する性質があります。このため治療薬の中では女性ホルモンの働きを抑えるホルモン療法が効きやすいと考えられます。レトロゾールはホルモン療法として使われる薬のひとつです。



リボシクリブで進行なく生存する期間が延長

次の結果が得られました。


無増悪生存期間は、偽薬群よりもリボシクリブ群のほうが有意に長かった(ハザード比0.56、95%信頼区間0.43-0.72、優位性についてP=3.29×10(-6))。

18か月後に、無増悪生存率はリボシクリブ群で63.0%(95%信頼区間54.6-70.3)、偽薬群で42.2%(95%信頼区間34.8-49.5)だった。

リボシクリブを使ったグループのほうが、がんが進行することなく生存した期間が長くなり、治療開始から18か月後まで進行も死亡もしなかった人はリボシクリブのグループでは63%、偽薬のグループでは42%でした。

副作用について次の結果がありました。


頻繁に見られたグレード3または4の有害事象で、どちらかのグループの患者の10%以上に報告されたものは、好中球減少(リボシクリブ群で59.3%、偽薬群で0.9%)、白血球減少(21.0% vs 0.6%)だった。有害事象による治療中止の率はリボシクリブ群で7.5%、偽薬群で2.1%だった。

副作用または乳がんの悪化などの可能性がある症状などのうち、入院が必要な程度の重症度であり、現れた人数が多かったものは好中球減少と白血球減少でした。

好中球は白血球の一種です。好中球を含む白血球は免疫の働きを担当している細胞です。抗がん剤の中には、副作用により白血球が減少しやすい種類のものがあります。好中球減少や白血球減少によって体は感染症に弱くなります。

リボシクリブのグループでは59%の患者に好中球減少が現れました。



リボシクリブが乳がんの新治療に?

レトロゾールの治療にリボシクリブを加えることで効果が増したという結果でした。リボシクリブが将来、乳がんの治療薬として選択肢に加わることがあるかもしれません。

リボシクリブと同様のしくみで働く薬はほかにもあります。パルボシクリブはアメリカなどですでに承認されているほか、日本でも承認申請中です(2017年1月時点)。リボシクリブとほかの薬をどのように使い分けるかは、今後の課題となる可能性があります。


引用元:
進行乳がんを治療する新薬リボシクリブで進行なく生存する期間を延長(MEDLEY)