働きやすい環境作り大切
 妊娠や出産を理由とした嫌がらせ「マタニティー・ハラスメント(マタハラ)」の防止対策が、来年1月から企業に義務付けられる
国や各地の労働局が啓発を行い、企業も体制整備を急ぐが、専門家は「働き方全般にかかわる問題で、誰もが働きやすい環境を整えることが企業の責務」と指摘する。

 マタハラ防止対策は、来年1月に施行される改正男女雇用機会均等法と改正育児・介護休業法により規定された。これまでも妊娠や出産を理由とした解雇など不利益な取り扱いは違法とされていたが、改正法ではさらに踏み込んだ。企業だけでなく上司や同僚の言動もハラスメントになる場合があるとして、企業に防止対策を義務付けている。
例えば、育児や介護のために時短勤務や休暇・休業の利用を相談した社員に、上司が「休むなら昇進はないと思え」と不利益取り扱いを示唆する、同僚が「周りのことを考えていない。迷惑だ」などと繰り返し言うことも、ハラスメントとなる場合がある。

 法施行に向け、厚生労働省と都道府県労働局は9月以降、「全国マタハラ未然防止対策キャラバン」の一環として、各地で説明会を開催。改正法のポイントや、社内周知の方法などについて説明している。東京都内で11月上旬に開いた説明会では、企業の担当者ら約500人が参加。東京労働局の説明に熱心に耳を傾けたが、終了後には様々な声が出た。

 団体職員の女性は「1月に向け、担当者がチームで検討を進めている」と話し、「私自身も産休・育休を取得し、周囲に負い目を感じる気持ちは分かる。対策を進めることで、職員の精神的負担が和らげば」と期待する。
一方、対応の難しさを指摘する声も。改正法では、派遣労働者についても派遣先企業を事業主とみなし、防止対策を義務付けている。人材派遣会社の人事担当者は「社内の準備は急いでいるが、社員を派遣する相手企業でも同様の対応をするよう要請しなければならず、大変です」と話す。

 マタハラが発生する背景には、人手不足や長時間労働もある。ソフトウェア開発会社の担当者は「社内に周知するのはもちろんだが、社員が休暇・休業を取得しやすいよう、休む人の業務を補う態勢も必要。でも、今の人員では難しい」と不安をのぞかせた。

 日本女子大教授の大沢真知子さん(労働経済学)は「管理職の中には古い価値観のまま、配慮のつもりで『母親は家にいた方がよい』などと言う場合もある。研修を通して意識改革を進めることが欠かせない」と指摘。「相談窓口の設置などを進めることに意味はあるが、それだけで終わらせてはならない」と話す。
マタハラ防止対策の難しさは、「加害者」が異性・同性を問わず、また職場の上下関係にかかわらない可能性がある点だ。厚労省が昨年実施した調査で、マタハラを受けた経験のある女性に加害者を複数回答で聞いたところ、「直属の男性上司」「直属より上の男性上司」に次いで、「直属の女性上司」「同僚や部下の女性」と続いた。

 NPO法人「マタハラNet」代表理事の小酒部(おさかべ)さやかさんは「出産や育児で休む人の業務を周囲の社員が長時間労働でカバーしなければならない職場環境では、産休や育休を取得する人への不満が募ってしまう」と指摘。「業務を補う人を人事や賃金で評価する制度を整備するなど、社員が働きやすい環境を作ることが、マタハラ防止には不可欠」と話す。

 改正法は、男性の育児や介護する社員への嫌がらせも、防止対象とした。ハラスメント対策に詳しい「クオレ・シー・キューブ」(東京)のコンサルタント、稲尾和泉さんは「マタハラは女性固有の問題と捉えられてきたが、改正法により、男性も管理職も、自身に関係のある問題となった。働き方にもかかわる課題として、全社的に取り組んでいく必要がある」と話している。(福士由佳子、大郷秀爾)
◇企業に求められる主な防止対策

 ・就業規則等への方針の明記と管理職も含めた社員への周知・啓発

 ・相談・苦情に対応する窓口の設置と体制整備

 ・事実関係の迅速・正確な確認

 ・事後の再発防止策
(厚生労働省の資料から抜粋)

引用元:
マタハラ防止対策、企業急ぐ…来年1月義務付け(読売新聞)