母親の卵子から遺伝情報を含む核を取り出し、別の女性の卵子に移植して受精させる方法で、父親を含む3人の遺伝子を持つ男児を出産させることに米ニューヨークの病院が成功したことが分かった。来月開かれる米生殖医学会の大会で発表する。3人の遺伝子を持つ子供が生まれるのは世界初とみられ、安全性や倫理面の問題を巡り論議を呼びそうだ。【千葉紀和】

 英科学誌ニューサイエンティストなどが報じた。男児の両親はヨルダン人で、母親はミトコンドリア異常が原因のリー脳症と呼ばれる遺伝性の難病のために、過去に2人の子どもを出産後に亡くし、4回流産していた。

ジョン・ザン医師らのチームは、母親のミトコンドリアの遺伝子変異を引き継がないよう卵子の核だけを取り出し、健康な第三者の女性の核を除いた卵子に移植。父親の精子と体外受精させ、母親は4月に男児を出産した。健康に影響はないという。

 この手法は「ミトコンドリア置換」と呼ばれ、ミトコンドリアには核とは別に独自のDNAがあるため、子どもは3人の遺伝子を受け継ぐ。女児であれば、さらに次世代にも引き継がれる。英国では昨年2月、科学的検討を踏まえて重い遺伝病の女性を対象に臨床応用を認めた。

 ただ、反対や慎重な意見も多く、今回の治療はメキシコで実施された。

 生殖補助医療に詳しい埼玉医科大の石原理教授(生殖医学)は「現時点では重篤なミトコンドリア病患者の出産の唯一の解決法になる。第三者のミトコンドリアから引き継がれる遺伝子はごくわずかだが不明な点も多く、継続的な検証と十分な情報開示が欠かせない」と指摘する。

日本ではミトコンドリア置換に関する法規制はなく、一部で基礎研究が実施されている。日本産科婦人科学会倫理委員長の苛原(いらはら)稔・徳島大教授は「ミトコンドリア病の発生頻度は人種によって異なり、安全性も科学的に証明されていない。臨床応用は将来の検討課題だが、倫理的にも日本でコンセンサスは得にくく、現段階では基礎研究にとどめるべきだ」と話す。



引用元:
赤ちゃんに3人の遺伝子 米病院、遺伝病の女性出産 新技術、安全・倫理面で議論(毎日新聞‎ )