乳がんの早期発見や治療の大切さを伝える「ピンクリボンフェスティバル」(日本対がん協会、朝日新聞社など主催)が、「乳がん月間」の10月に開かれる。14年目の今年も、各地でイベントやシンポジウムが催される。ゲスト参加する俳優の南果歩さんや、「がんと就労」問題に取り組む医師に話を聞いた。

がんと戦うより受け入れる気持ち 南果歩さんのメッセージ
「がん、そして働く」シリーズはここから

 

 ■手術・治療…発信が私の役割 俳優・南果歩さん

 今年2月、夫の入院中に受けた人間ドックで「要再検査」の通知が来ました。早期の乳がんでした。

 手術は3月11日、右乳房の腫瘍(しゅよう)と周囲を5センチほど切除しました。ドラマの撮影が終わって3日後。舞台稽古を1カ月後に控えていたので、最短期間で手術を受けなければ、舞台に支障が出ると、再検査前から手術の段取りを進めました。

 だから「私はがんなんだ」ときちんと認識できたのは手術後でした。それまでは「手術まで予定通りに」と仕事モードで気が張っていました。でも発熱やだるさなど想像以上の体のダメージに出口が見えない気持ちになりました。転移の有無を確認するため、リンパ節も切ったので右腕は全く上がりませんでした。

 入院中は舞台に立つイメージもできずに不安でしたが、体を少しずつ回復させようと心がけました。手術後すぐにマッサージを始め、退院後はヨガやストレッチもしました。


 みなみ・かほ 1964年、兵庫県出身。84年、短大在学中にデビューし、映画やテレビ、舞台などで活躍。夫は俳優の渡辺謙さん。=川村直子撮影

 舞台の稽古初日には右腕もかなり回復し、間に合ったと思いましたね。舞台が終わったときは本当にほっとして、やり遂げたという自信にもつながりました。やはり仕事は絶対的なモチベーション。手術後につらいことばかり考えるととても乗り切れませんが、ちょっと先を見据えて明るい方向に目標設定し、旗印を立てていくのが大事でした。

 手術当日の「頑張って行ってきます」というツイートは決意表明です。病室からスマホで打ち込みました。今も治療のことを発信していますが、病気を経験したからこそできる一つの役割だと考えています。同じ乳がんを経験した人や治療中の人と、今立っている場所を言葉で共有すると、お互いに少し楽になれる部分があると思うのです。

 「検診受けようと思います」とメッセージをくれた人もいます。何かのきっかけになれて、うれしかったです。私も検診で救われたので、その大事さは伝え続けていきたい。

 右乳房の5センチの筋肉を失って、「命には限りがある」と身をもって知りました。好きな人と会おう、好きなものを食べようと自分の心持ちがはっきりしました。より人生を楽しむという熱が強くなったのかもしれない。仕事も一つずつをより充実させたいという気持ちが強くなりましたね。

 がんは自分の細胞が変化したものなので、「戦う」というより「受け入れる」という気持ちです。自分自身を見つめる時間をもらったと思って、病気と付き合いながら、私なりのやり方で発信していきます。

     *

 みなみ・かほ 1964年、兵庫県出身。84年、短大在学中にデビューし、映画やテレビ、舞台などで活躍。夫は俳優の渡辺謙さん。=川村直子撮影

 

 ■「自分らしい働き方」できる 医師・高橋都さん

 乳がん患者の年齢層は幅広く、ほかのがんに比べて若くして発症する人が多いのも特徴です。がんと診断された場合、治療をしながら、仕事や家事、育児をどうやっていくか。どんな人でも一度は大なり小なりパニックになると思いますが、「人と比べず、自分らしい働き方、暮らし方を大切にしていいのですよ」とまずは伝えたいです。

 仕事をしている人は、早まって辞めないでください。「もう働けない」と考えがちですが、実は、本格的な治療まで時間の余裕がある場合が多く、工夫次第で仕事や家庭と折り合いをつけられることが意外に多いのです。




高橋都さん(国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部長)

 医師はどうしても目の前の患者さんを「治療すべき対象」とみなしがちです。でも、患者側から、子育てや介護など家族の状況や仕事の内容を説明してもらえば、医学的にどのような配慮ができるか、一緒に考えられます。忙しそうな医師に切り出しにくければ、看護師や医療ソーシャルワーカーに話してみて下さい。相談は、全国約400あるがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでも受け付けています。悩みは一人で抱えないことです。

 乳がんは発症から10年、経過を見ます。治療前と変わらず普通に働ける人もいれば、働き方の見直しが必要な人や仕事観が変わる人もいます。仕事への影響は、雇用形態(正規、非正規、自営)や職種、企業風土にも左右されるでしょう。本人を見守る家族の思いもいろいろです。

 個人差が大きくて当たり前。そのときの状況に合わせて、自分なりの働き方を模索してほしいと思います。

 (国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援部長)

 

 ■朝日がん大賞に「地域がん登録」

 今年度の朝日がん大賞に、NPO法人・地域がん登録全国協議会が選ばれた。「地域がん登録」制度の基盤整備の取り組みが評価された。9日に京都市であるがん征圧全国大会(日本対がん協会など主催)で表彰される。理事長の田中英夫・愛知県がんセンター研究所疫学・予防部長=写真=は「24年間にわたる地道な活動に光を当ててもらったことに謝意を表したい」と話す。

 がんの発症者数、患者の治療や経過などの情報を集める「地域がん登録」は1951年に宮城県で始まり、徐々に全国へ広がった。ただ任意の取り組みで、未実施の地域があり、実施していても体制がまちまちで、収集率など情報の精度に差が生じるなどの課題があった。




地域がん登録全国協議会の活動について語る田中英夫理事長=名古屋市千種区

 協議会は、未実施の都道府県での制度導入や、情報精度の向上を支援するために92年に発足。実務にあたる自治体職員らへの研修や、職員同士の交流や情報交換をする学術集会を開くなどしてきた。2012年には初めて全都道府県で実施され、精度も年々向上している。

 がん登録を国の事業とすることも提言し続け、病院にがん患者の情報提供を義務づけるがん登録推進法が13年に成立する原動力にもなった。法人名は近く「日本がん登録協議会」に変更される予定。現状は国内でがんにかかる人の数は推計値だが、今年1月の法施行で、18年末に初めて実数が判明する見通しだ。


引用元:
もっと知りたい、乳がんのこと 10月にピンクリボンフェスティバル(朝日新聞)