インドの人はいつから子どもにカレーを食べさせるのだろう」。2年前の夏、離乳食を作りながら、そんなことを考えていた。世界に目を向ければ、日本人が驚くようなものも食べさせているのではないか。我が子の離乳は完了したが、あの頃の疑問を解消すべく、海外の離乳食事情を調べた。【生活報道部・稲田佳代】
各国の在日外国人が先生となって家庭料理を教える「Niki’s Kitchen(ニキズキッチン)」に協力を仰ぎ、アンケートを取ってもらった。米国▽カナダ▽インドネシア▽タイ▽香港▽バングラデシュ▽インド▽ロシア▽オーストリア▽セルビア▽ハンガリーと、個別に取材した韓国をあわせ、計12カ国・地域の回答がそろった。
出身地方や各家庭で考え方の違いがあるため、一律の基準ではないが、離乳食開始は日本と同じ4〜6カ月がほとんどだった。
どこも、軟らかく煮た野菜や果物をつぶしてペースト状にしたものを食べさせる点は同じ。主食となる炭水化物はアジア地域が米、インド地域は米と豆、欧州はジャガイモや米、麦類、トウモロコシなどで、お国柄が表れていた。ロシアはソバの実も使うそうだ。
他にも、ロシアでは9カ月ごろから七面鳥、ウサギ、子牛肉なども与える。七面鳥は肉質が柔らかくて子ども向きといい、セルビアでも使う。
気になるのは辛い料理で有名なインドと韓国、そして「ポレンタ」など聞き慣れない食べ物を挙げてくれたセルビア。そこで、この3カ国の離乳食を作ってもらった。
インド料理を教えているレヌ・アロラさん=本人提供
日本で40年にわたりインド料理を教えているレヌ・アロラさん(67)が作ってくれたのは、「キチュリー」という名のおかゆ。日本では最初の一口はおかゆが定番だが、インドでもおかゆや種類が豊富な豆のスープから始める。
米2カップに対応するターメリック小さじ2分の1(左)、レッドペッパー少々(右奥)、塩小さじ4分の3=東京都品川区北品川6のアロラインド料理学院で2016年8月3日午後1時8分、稲田佳代撮影
2カップの米と水に漬けて柔らかくしたムング豆30グラムを、6カップのお湯で炊く。調味料は塩小さじ4分の3▽ターメリック小さじ2分の1▽レッドペッパー少々。レッドペッパーと聞くとギョッとするが、「赤ちゃんでもこのくらいなら大丈夫」とアロラさん。黄色のターメリックは体を元気にし、ムング豆は消化に良い。大人も油料理が続いた後などにキチュリーを食べると、ホッとするという。
ふたをして蒸らす直前の水がなくなる手前の段階=東京都品川区北品川6のアロラインド料理学院で2016年8月3日午後1時20分、稲田佳代撮影
炊く時は材料をすべて鍋に入れ、沸騰したら弱火にして底を混ぜながら8分待つ。水分がなくなる少し手前で火を消し、ぴったり閉まるふたをして10分ほど蒸らす。量は必要に応じて減らしてもいいが、米を1カップ以下にすると「あまりおいしくない」とアロラさん。
自家製ヨーグルトにクミンを混ぜて作る「ライタ」。サラダの基本的なあえ衣としても使う=東京都品川区北品川6のアロラインド料理学院で2016年8月3日午後1時23分、稲田佳代撮影
ヨーグルトにクミンと塩少々を混ぜるライタも作ってくれた。クミンはカレーの香りのもとで、嗅ぐと急におなかが減ってくる。インドではヨーグルトを各家庭で手作りするのが一般的で、クミンも好みのひき具合で使う。
味見してみた。キチュリーは米と豆の優しい甘みの奥にほんのりとスパイスの香りが感じられ、「アチャール」という酸味と塩味の強いマンゴーの漬物と一緒にいただくと、大人の朝食に良さそう。ライタはくせのない酸味にクミンの苦みが少し利いている。赤ちゃんの成長に合わせてキュウリやゆでたジャガイモ、ニンジンなどを細かく刻んで混ぜて与えるといいそうだ。
ところでいつから辛いカレーを食べるのか。アロラさんによると、大人と同じ物を食べたくて辛いカレーに手を出しては大泣きするうちに自然と辛さに慣れ、12歳ごろには大人と同じ辛さで食べられるようになるという。
韓国家庭料理ブログ「眞味(ジンミ)」を公開している金妍貞(キム・ヨンジョン)さん=本人提供
もう一つの辛い食べ物の国、韓国の料理ブログを公開している金妍貞(キム・ヨンジョン)さん(42)は「日本の離乳食と似ていますよ」という。とはいえ、キムチは3歳から水で軽く洗って与えるし、幼稚園の給食でもオレンジ色程度に漬かった大根のキムチ「カクテキ」が出る。肉類も、日本では鶏肉からが一般的だが韓国は牛肉からで焼き肉の国らしい。
韓国の離乳食、サツマイモおかゆ(手前)とデンジャンおかゆ(左奥)、ワカメおかゆ(右奥)の3品=東京都葛飾区で2016年6月30日午前11時24分、稲田佳代撮影
作ってくれた離乳食は3品。いずれも水につけた米15グラムに、「韓国みそ(デンジャン)おかゆ」ならホウレンソウと豆腐、鶏肉を、「ワカメおかゆ」には牛肉とニンジン、ワカメを、「サツマイモおかゆ」にはサツマイモとニンジン、タマネギをゆでて加え、水大さじ2〜3とともにミキサーにかける。それに米の10倍弱の水を加えて鍋で強火にかけ、沸騰したら弱火で10分ほど煮る。
それぞれデンジャンのうまみと塩気、牛肉の風味、サツマイモの甘みがほんのりと感じられておいしい。ワカメおかゆは大人の味覚でも満足できた。
「韓国はスープ文化なんです」とヨンジョンさん。デンジャンのみそ汁をはじめ、牛肉や煮干し、昆布、アサリなどいろいろなダシで毎日スープを作るので、それをベースに離乳食を作ることが多い。
また、韓国は出前が一般的で、各家庭に地域の出前店が一覧になった分厚い冊子が配られているほどだという。韓国料理だけでなくイタリアンや鍋料理、フライドチキンなどほぼ何でも出前可能で、24時間対応の店も。もしかして離乳食も?と尋ねると、ヨンジョンさんは「ありますよ!」。なんて便利なんだろう。
週末に自宅で料理を教えている駐日セルビア大使秘書の長門ティヤナさんと長女玲奈(れな)ちゃん=2016年7月22日午後5時41分、稲田佳代撮影
最後はニキズキッチンで料理を教えている駐日セルビア大使秘書、長門(ながと)ティヤナさん(39)宅を訪れた。小学1年の長女、玲奈(れな)ちゃん(6)も出迎えてくれた。
セルビアの国民的ビスケット「プラズマ」と胚芽入りセモリナ粉「Griz(グリッズ)」(右奥)。プラズマはビスケット状(手前)と粉末状(左奥)の2種類ある=2016年7月22日午後5時、稲田佳代撮影
粉状の「プラズマ」に温かいミルクを注ぐ玲奈ちゃん=2016年7月22日午後4時47分、稲田佳代撮影
最初に出してくれたのは「プラズマ」という名の国民食的ビスケット。粉状の物も売られていて、適量に温かい牛乳をかけて混ぜて、離乳食とする。子どもから大人まで愛されていて、首都ベオグラードでは、アイスクリームとコーヒーにプラズマ粉を混ぜた「プラズマアイスフラッペ」が食べられる。
コーングリッツで作る「ポレンタ」。カッテージチーズを混ぜたり(右)、温かいミルクをかけて食べる(左)=2016年7月22日午後4時57分、稲田佳代撮影
気になっていた「ポレンタ」は、トウモロコシの粉「コーングリッツ」と水を鍋で加熱し、ペースト状にしたものだった。セルビアでは塩気の強いカッテージチーズを加えて「しょっぱく」したり、赤ちゃん向けには温かい牛乳をかけたりして与える。
牛乳で伸ばした胚芽入りのセモリナ粉「グリッズ」。蜂蜜を加えて甘くしたり、無糖ココアを混ぜて食べる=2016年7月22日午後5時7分、稲田佳代撮影
最後は「小麦のクリーム」とも言われるセモリナ粉「グリッズ」。胚芽が入っていて栄養価が高く、ポタージュ状にして食べる。1歳を過ぎたら、セルビアで豊富に採れる蜂蜜を入れたり、砂糖なしのココアを加えたりする。卵と混ぜてすいとんのようにしてスープに入れることもある。
セルビアの国民的ビスケット「プラズマ」は湯に直接粉を入れて沸騰させて作るコーヒーによく合う=2016年7月22日午後4時44分、稲田佳代撮影
いずれも離乳食としてだけでなく、子どもの朝食やおやつとして食べられている。見た目はドロドロして大人は抵抗を持つかもしれないが、記者はシンプルな味わいがくせになりスプーンが止まらなかった。玲奈ちゃんは「プラズマが一番好き」と笑う。甘い物が多かったが、セルビア人は「しょっぱい」味が好みで0歳から塩を使う。ティヤナさんは梅干しが大好きという。
豊富に採れるベリー類で作るセルビアのジャム「スラートコ」をふるまわれた。ジャムより水分が多く、とても甘い。来客時は歓迎の意で水と一緒に出す。農作業の前の元気づけにひとくち食べることも=2016年7月22日午後5時35分、稲田佳代撮影
3カ国の離乳食を食べ終えてみると、いずれも薄味でありながら、それぞれの国の食文化がきちんと反映されていたのが印象的だった。日本では乳幼児期からの外国語教育が人気だが、味覚の国際教育に取り組んでみるのも面白い。
引用元:
赤ちゃんハテナ箱 カレーはいつから? お国柄が出る離乳食に(毎日新聞)