勤務している病院で、私がお母さんたちにお話をする講座が週に3回あります。小児科医の仕事は本来、子どもが病気になった際の治療ですが、少子化に伴ってなのか育児支援が大事になってきています。実際、驚くようなことを聞かれます。オムツはいつどうなったら次のサイズにしたらいいか、新生児の沐浴指導を受けたけれど子どもと一緒にお風呂に入る方法の指導はないのか、髪が伸びてきたんだけれど切ってもいいかなどなど。子どもを産むまでに一度も赤ちゃんを抱っこしたことがないという人も多いからでしょうね。だから母乳やミルクだけでなく離乳食が始まると、とまどう人も多いのです。
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離乳食は消化不良を起こさずに、液体からだけでなく固形物からも栄養を摂れるようになるのが目的です。以前、日本小児科学会や日本周産期・新生児学会で、ゴリラやチンパンジーの専門家を招いてそれぞれの育児を聞く機会がありました。ヒト以外は調理らしい調理をしないので、母乳をやめたらすぐに大人と同じようなものを食べなくてはなりません。お腹を壊したり、栄養不足になったりする危険性はヒトよりも高いでしょう。ヒトにしかない、母乳・ミルクから大人の食事をつなぐものが離乳食です。
母乳は完全栄養と言われ生後5〜6ヶ月までそれ以外のものをあげる必要がありません。母乳にならって作られている粉ミルクでも、離乳食開始以前に果汁やお味噌汁の上澄みをあげる必要はありません。母子手帳に離乳食の準備のためにそういったものをあげるよう記載があったのは、2008年以前。今は必要がないことがわかっています。生後5〜6ヶ月以降は成長にともない栄養が不足しますから、食事を始めないといけません。
「離乳食」で検索すると、とてもたくさんの記事がヒットします。その上位には全く入ってきませんが、厚生労働省が離乳食の支援ガイドを出しているのを知っていますか?(http://rhino.med.yamanashi.ac.jp/sukoyaka/zyunyuu_rinyuu2.html別ウインドウで開きます ) 母子手帳にも少しですが離乳食をどのように進めたらいいかも載っています。
この厚労省の「健やか親子21」のガイドには、「生後5〜6ヶ月になったらなめらかにすりつぶした状態の食べ物をあげる」とあります。日本人は離乳食を7割の人がコメからあげますが、他にもジャガイモ、ニンジン、カボチャを使う人もいます。
離乳食の進め方は、初めの1ヶ月は1日に1回、なめらかにすりつぶしたものをあげて、母乳やミルクはそれまでと同じ量をあげます。1ヶ月すぎたら1日に2回、舌で潰せる程度のものをあげます。母乳は子どもがほしがったらその都度あげ、ミルクは1日に3回程度。生後9ヶ月になったら1日に3回、歯茎で潰せる程度の硬さのものをあげます。母乳はやはりほしがったときにあげて、ミルクは1日に2回程度です。
薄味にしようと気をつけるあまり、全く味付けをしないと食べないことがあります。濃い味にしなければいいので、多少は塩味や旨味があったほうが食べてくれるでしょう。生後5〜6ヶ月だからといって、胃腸や腎臓への負担はありません。
WHOの「補完食」というパンフレットは、日本以外の国がどのように離乳食をあげているかをうかがうことができます。(http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/66389/2/WHO_NHD_00.1_jpn.pdf別ウインドウで開きます) 補完食というのは母乳を補う食事という意味。パンフレットによるとどの国も主食とされているものを柔らかくしてあげます。穀物だと米、トウモロコシ、小麦、キビ、ソルガム、キヌア。根菜類を主食とする国はキャッサバ、ヤムイモ、タロイモ、タニア、サツマイモ、ジャガイモなどを。でんぷん質の多い果物を使う国は料理用バナナ、パンの木の実、プランテーンの実。多彩ですね。たまに「うちの子はお粥を食べません。ジャガイモは食べるんだけど」というお母さんがいますが、お粥にこだわらずジャガイモでもパン粥でもいいでしょう。
そして、WHOのパンフレットには「比較的少ない水で濃いお粥を作ります、お粥はすすることのできない濃さにしましょう、そしてその濃いお粥はスプーンで食べさせます」と書いてあります。傾けたスプーンから容易に落ちない程度のお粥です。日本だとみんな十倍粥(お米1:水10)から始めますが、ネットで検索すると「離乳食用十倍粥」として紹介されているレシピは、薄すぎるものも多いようです。厚生労働省の前述のガイドにも十倍粥とは一言も書いてありません。離乳食を始める頃の赤ちゃんの胃は、容量が200mlくらいなので、薄すぎるお粥をたくさんあげると栄養不足になります。初めの数回は十倍粥でもいいかもしれませんが、いつまでもそれだけでは栄養不足になります。
それからWHOの指導では食事の回数が、日本ととても違います。生後6ヶ月以上12ヶ月までは、子どもが欲しがるたびに母乳を与えましょう、母乳育児されているなら、補完食を1日3回あげましょう、母乳育児されていないなら、補完食を1日5回あげましょうとあります。おそらく質のいい水や粉ミルクが手に入らない場合、母乳が出なければ食事の回数を増やしなさいということでしょう。
日本では粉ミルクをあげられますが、子どもが離乳食を食べたがらずに悩むお母さんは多いもの。一回量が少ないなら1〜3回といった回数にこだわらず離乳食の回数を増やしてみるのも一つの方法ですね。また、日本の育児本にはゴックン期、カミカミ期などに細かく分類され、量も回数も目安が書いてあります。それをもとに毎回計量しているお母さんもいますが、目安は目安です。もう少し大らかになりましょう。むせないようになめらかさを調節する、丸飲みする子には一度に口に入れる量を少なくするとか、逆に噛まないと飲み込めない大きさにするなどの工夫をして、お子さんの様子をよく見ましょう。
引用元:
離乳食 十倍粥からはじめなきゃダメ?(朝日新聞)