夏に流行する感染症の基礎知識【前編】

 子どもたちがかかりやすい夏場の感染症に手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭(いんとう)結膜熱(プール熱)がある。この三つの病気を総称して「3大夏風邪」とも呼ばれる。保育園や幼稚園などではすでに流行しているところがあり、国立感染症研究所の動向調査でも週を追うごとに患者数は増加傾向にある。「たかが夏風邪」と思っていると、重篤な合併症を起こしてしまう恐れもある。世田谷子どもクリニック(東京都世田谷区)院長の副田(そえだ)敦裕医師にそれぞれの病気の特徴と対処法を聞いた。

予防接種も特効薬もない



 手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱とも0〜5歳の乳幼児に多い病気で、例年7〜8月に流行のピークを迎える。病気ごとに原因となるウイルスは複数ある(表参照)。同じウイルスへの感染は1度きりだが、また別のウイルスに感染する可能性があり、ひと夏に何度もかかることがある。2回目以降は比較的軽くなる傾向にあるが厄介だ。また、いずれも予防接種も特効薬もないため、かかってしまったら対症療法が基本になる。



 手足口病は昨年流行した。原因ウイルスとしてはコクサッキーA16、CA6、エンテロウイルス71(EV71)などが多い。このうちEV71は、髄膜炎などの中枢神経系の合併症が他のウイルスより多いとされている。また昨年、一部で流行したエンテロウイルスD68にかかった子どもにはまひ症状が出たり、重いぜんそく症状が出たりしたという報告があり、ウイルスの実態解明が進められている。手足口病は、名前の通り、手足や口の中などに2〜3mmの水疱(すいほう)ができる。発熱する場合もあるが、38度以下の微熱にとどまる場合が多い。まれに重い後遺症を残す髄膜炎や脳炎を引き起こすことがあるので、ぐったりしていたり、頭痛や嘔吐(おうと)、高熱などが出たりした場合には注意が必要だ。

 ヘルパンギーナは38〜39度の高熱が出て、喉の奥に小さな水疱ができる。原因ウイルスの一部は手足口病と同じで症状も似ているが、ヘルパンギーナの場合、高熱が出るのと水疱が口の中に限られるのが特徴だ。高熱による熱性けいれんや、まれに髄膜炎や心筋炎を起こすことがあるので注意したい。

 上の二つの病気は、原因が腸の中で増殖する同じ仲間のウイルスだが、咽頭結膜熱の原因となるアデノウイルスはタイプが異なる。発熱は三つの病気の中で最も高い傾向にあり、39〜40度になることもある。他に喉と目の症状が特徴で、主に喉の痛み▽目の充血▽目やにが多い▽まぶしがる▽涙が出る−−などがある。別名「プール熱」とも呼ばれるように、プールの水を介して目の結膜からも感染する。

 アデノウイルスは現在67以上の型が報告されており、さまざまな病気の原因になる。普通の風邪の症状で終わる場合もあれば、型によっては重症の肺炎を起こすこともあるので注意したい。咽頭結膜熱の流行を起こすのはアデノウイルスの3型が多い。

解熱剤の使用は子どもの様子を見て判断

 特効薬がないのなら、どう対処すれば良いのだろうか。副田医師は「こまめに水分を与えることが大切」と強調する。どの病気も喉の水疱や痛みなどで飲食しにくくなる。飲みやすいスポーツ飲料や、軟らかくて飲み込みやすいゼリー、プリン、ヨーグルトなどを与えるといいという。味の濃いものは刺激が強くて嫌がるので控えた方がいい。

 ヘルパンギーナと咽頭結膜熱は高熱が出るのが特徴だ。一般的に38.5度を超えたら解熱剤を使った方がいいと思われているが、一概には言えないという。副田医師は「解熱剤は見かけ上の熱を下げるだけで、病気が治るわけではない。小さい子どもは熱が下がると安静にできないという側面がある。また、熱が上がったり下がったりした方が、かえって疲れる場合もある」と指摘する。ただ、高熱で水分も取れないような状況だったら注意が必要だ。その場合は一時的に解熱剤を使って熱を下げ、水分補給してあげるといいという。

予防は手洗いが基本

 感染を防ぐために、できることはあるのだろうか。副田医師は「手洗いが基本」と訴える。病原体が付いたおもちゃや手すり、ドアノブなどを触り、その手で目や口、鼻などに触れることで感染してしまうためだ。

 いずれの病気も、頻度は少ないが大人もかかる可能性がある。子どもは高熱に強いが、耐性のない大人は熱が出ると体力を消耗しやすいという。子どもがかかってしまったら、家庭内で感染を広げないために、使用するタオルを別にすることも重要な対策になる。特にアデノウイルスは感染力が強く、子どもの目の周りなどを拭いたタオルで顔を拭くと、感染する恐れがある。目やにや唾液などが付いたタオルは別に洗濯した方がなお良いという。また手足口病やヘルパンギーナは、症状が治まっても便から数週間〜1カ月程度にわたってウイルスが排出されるため、特におむつ替えは気をつけて行い、手洗いをこまめにすることが大切だ。

 子どもが保育園などに通っていて、第2子以降を妊娠中という母親もいるだろう。子どもが病気になると看病中にうつってしまうことがあるかもしれないが、妊婦は抵抗力が低下していて重症化しやすいので、特に注意が必要だ。出産直前にエンテロウイルスに感染すると、新生児が感染してしまう恐れがある。症状は軽く済むことが多いが、まれに肝臓や心臓など多くの臓器に感染し、死亡する場合もある。生後2週間以内に感染した新生児が最も重症化しやすいため、細心の注意を払う必要がある。

 保育園や幼稚園はどのくらい休ませれば良いのだろうか。出席停止の病気などを定めた学校保健安全法によると、咽頭結膜熱は「発熱、咽頭炎、結膜炎など主な症状が消失した後2日を経過するまで出席停止」とされている。だが、手足口病とヘルパンギーナは全身の状態が安定していれば登園が可能で、原則として出席停止の措置はない。ウイルスの排出期間が長く、流行阻止のための出席停止は現実的ではないとされているためだ。こうしたことからも、手洗いを励行することで予防に努めるしかない。


引用元:
子どもも大人も要注意「3大夏風邪」(毎日新聞)