「日本のがん罹患数・率の最新全国推計値公表」。6月29日、国立がん研究センターがこんな調査結果を発表した。47都道府県ごとに「部位別」のがん罹患率を調べた史上初の統計である。

 全374ページにわたる調査報告書から、本誌は女性特有のがんである「乳がん」「子宮がん」「卵巣がん」の罹患率を分析。結果、都道府県によって大きな“偏り”があることが判明した。

●青森の罹患率が高い
 子宮がん、卵巣がんでワースト5に入っており、表にはないが子宮内膜がんでもワースト3である。

●卵巣がんの罹患率は東北地方が上位を占める
 1位岩手、3位青森、6位秋田と、東北地方が罹患率の上位に連なる。

●乳がん罹患率は東京が1位
 子宮がんの罹患率は全国平均値という東京だが、乳がんは断トツのワースト1だった。

●鹿児島の罹患率が低い
 同県の乳がん罹患率は全国で最も低く、子宮がんも46位。同様に、沖縄も総じて低かった。

 全部位を見ると、男女問わず、胃がんと大腸がんは東北地方と山陰にかけての日本海側が多く、肝がんは西日本で目立つ傾向もあった。

 なぜこうした偏りが生まれるのか。がんの地域格差に詳しい弘前大学医学部附属病院の松坂方士准教授(医療情報部)が語る。

「がんの発症には、気候や食生活が結びつきやすく、日照時間が関係するという海外の研究もあります。ハッキリとした根拠はいまだに判明していないんですが、日本海側に胃がんが多いのは、食塩量の多さとの関連が長く指摘されてきました。

 青森の例では、肥満や運動不足が影響する大腸がんの罹患率も高い。国民健康・栄養調査の結果を見ても青森のBMI指数は高いので、因果関係はあるかもしれません」

 実際、青森県の健康関連の指数は惨憺たる状況。喫煙率は全国で男性1位、女性2位。飲酒率は男性1位、女性8位。カップラーメンの消費量は全国1位である。

 この辺りの事情が、がんの罹患率を押し上げている可能性は否定できない。

 医学博士の中原英臣氏もこう語る。

「生活習慣の影響は大きいでしょう。お酒、たばこ、野菜の摂取量。健康的な生活をどれだけ送れているか。

 例えば秋田や新潟、石川などの日本海側は冬に大雪が降る。その間は野菜がとれませんから、代々漬け物にして野菜を保存してきたのです。塩分を多量に摂取した結果、がん罹患率の高さに繋がった可能性がある。

 東京と乳がんの関係も食生活の欧米化の影響が指摘されます。これまで乳がんは欧米に多い病気でした。パンやコーヒー、肉食など、都心の食生活が一気に欧米化した結果、後を追うように東京の乳がんが増加した。日々の生活が病を招くのです」

 一方、今回の「乳がんの罹患率は東京が1位」という調査結果を出生率と結びつける見方もある。ピンクリボンブレストケアクリニック表参道の島田菜穂子院長が語る。

「妊娠中や授乳中は、通常の生理時に起こる女性ホルモンの乳腺への過剰刺激をリセットする期間になっているといわれています。その期間がなかったり、遅くなることが、乳がんのリスクを高めている可能性がある。

 また、晩婚化や高齢出産化が進み、不妊治療、すなわち『女性ホルモン剤』の使用機会が増えていることも、乳がんとの関連性が疑われます。生活の都市化や現代化と乳がん発症率には密接な関係があるのではないでしょうか」

 厚労省の調査によれば、2015年度の東京の出生率は1.20。全国最下位の数字である。その東京の乳がん罹患率が1位であることに、因果関係がないと、誰が言えるだろうか。

 なお、鹿児島や沖縄が総じてがん罹患率が低い理由については、気温の高さや野菜摂取量などを要因に上げる声はあるが、「正確にはわからない」と専門家は口を揃える。

 今回の調査結果は、あくまで都道府県別のがん罹患率を出すにとどまり、数字の深い分析はこれからだ。

 がんと地域格差のさらなる実態解明に向け、最も期待されているのが、2016年1月から開始された「全国がん登録」。日本でがんと診断された全ての患者のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する画期的な仕組みである。

 国立がん研究センターによれば、早ければ2018年にも「全国がん登録」を基にした、最新のがん罹患率を公表する予定だという



引用元:
子宮がん、乳がん、卵巣がんの罹患率は都道府県によって偏り(ガジェット通信)