4月16日未明の熊本地震本震で病棟が損傷し、全館避難を余儀なくされた熊本市民病院(熊本市東区)から、最重症の新生児を福岡市立こども病院(福岡市東区)にヘリコプターで転送する際、情報の混乱が生じ、容体が悪化して危険な状態に陥りかけていたことが分かった。なぜ情報混乱は起きたのか。原因を突き詰めていくと、夜間はヘリが飛ばず、大規模災害時には、被災地の空港などに一度集結して待たねばならないなど、ヘリの機動性には限界があることが見えてきた。【福岡賢正】


最重症の新生児、容体危険な状態に 誤報が相次ぎ「公園に待機1時間余」

 本震当日の未明から朝まで、私は全館避難を決断した市民病院で取材していた。ヘリで搬送された新生児について、病院の避難対策本部は「心臓病で人工呼吸器を付けている女児」と説明した。ところが受け入れたこども病院の16日の内科当直で、ヘリで搬送された新生児の主治医となった循環器科の連(むらじ)翔太医師によると、女児ではなく生後18日の男児だったという。

 「被災直後の混乱時には性別を間違えて発表してしまうこともありえること」と連医師は言うが、看過できない混乱もあった。それがヘリをめぐる情報混乱だ。

 連医師によると、男児は生まれつき心臓内の壁に穴があり、大動脈も途中で切れていて、手術しなければ助からない重篤な心臓病を抱えていた。市民病院の心臓外科医から男児の受け入れ要請があったのは16日午前3時過ぎ。その直後に、今度は市民病院の新生児科の医師から双子の新生児の受け入れ要請が入り、さらに循環器科の医師から「新生児をもう1人受け入れてほしい」と要請が続いた。

 通常の転院はベッドを管理する内科系を通じて連絡するが、今回は心臓外科や新生児科から外科当直などへ慣例破りの要請が続き、連医師は「市民病院は尋常な状態ではないと推測した」という。

 こども病院の準備が整い、4人を受け入れると市民病院に回答したのが午前4時半前。最重症の男児はヘリ、他の3人は救急車で陸路搬送することが決まった。

 しばらくしてヘリが飛んだとの情報がこども病院に入り、連医師らは午前5時ごろからヘリポートで待機した。しかし1時間たってもヘリが来ないため、電話で市民病院に確認すると誤報だったことが分かり、ヘリポートから撤収したという。

 混乱はさらに続いた。市民病院が「午前6時10分にヘリが着く」と連絡を受けたのが午前5時50分。現場に居合わせた私も含めて「よし!」の声が上がった。男児を乗せた救急車は午前6時過ぎ、市民病院のヘリポートとなる近くの江津湖公園に到着して、ヘリの飛来を待った。ところが1時間以上たってもヘリは来ず、着いたのは午前7時13分。こども病院に搬送を終えた時には午前7時50分になっていた。

 他の新生児3人は救急車1台で午前5時に熊本市民病院を出発し、同8時18分にはこども病院に到着した。結果的に空路搬送は陸路搬送より28分しか早くなかった。

 ヘリで運ばれた男児は心臓への負担を軽減するため、低酸素療法を受けていた。しかし本震直後から中断を余儀なくされ、公園で1時間以上待機したストレスも加わって、こども病院に到着した時は「ちょっとしんどい状態だった」と連医師。その日の午後、連絡がとれた両親には「無事到着したが、手術までに亡くなることもありうる」と伝えたという。

夜飛べず、集結し指示待ち 要請から搬送終了まで5時間弱 情報の流れ洗い、混乱防げ

 江津湖公園で1時間以上もヘリを待った市民病院の田代和久総務課長は「どこから連絡があったのか分からないが、午前6時10分にヘリが着くと聞いて公園に向かった。なかなかヘリが来ないのでじりじりした」と話す。

 幸い、男児はこども病院での治療が功を奏して持ち直し、4月19日に6時間近くかけて手術も成功。その後も順調に回復し、5月12日に退院した。

 男児を運んだヘリは各県が配備しているドクターヘリではなく、福岡市消防航空隊に所属する消防防災ヘリだった。操縦した安藤秀紀機長によると、熊本県防災消防航空隊の指示で午前5時37分に福岡空港を離陸し、午前6時7分に熊本空港に着陸した。そして午前7時ごろ江津湖公園に向かうよう指示され、同7分に空港を飛び立ち、6分後に同公園に到着した。

 ヘリは夜間の飛行は避けて日中に飛ぶのが原則。大規模災害時には多くのヘリを同時に動かすため、一旦空港などに集めて指示を出す形をとり、他県から直接、現場に向かうことはないという。

 本震があった16日には近畿以西からドクターヘリ14機と消防防災ヘリ16機が熊本空港とうまかな・よかなスタジアム(熊本市東区)に招集された他、自衛隊や海上保安庁のヘリにも出動が要請された。

 熊本県防災消防航空隊の藤山修一隊長は「県の災害対策本部と調整しながらヘリは運用し、福岡市消防航空隊に指示を出した段階で本部には連絡した。誤った情報が病院に伝わった理由は分からないが、間に立った機関が不正確な伝え方をした可能性はあるかもしれない」と話す。

 最も考えられるのは熊本空港と江津湖公園に着く時刻を誤った可能性だ。平常時なら駐機中の最寄りの空港から直接ヘリが現地に来るため、情報があいまいなら、誤って受けとられても無理はないからだ。

 必要なのは、本震当日の情報伝達の流れを洗い直して、同様の混乱が起きないようにすることだろう。熊本地震時の救急対応を検証している県医療政策課の冨安智詞・医療連携班長は「ヘリを巡る情報混乱は初めて聞いた。他にも混乱があったのか、どうすべきだったのかを整理して、今後に生かしたい」と話している。


 ■男児の搬送の動き■

午前1時25分ごろ 熊本地震本震

午前3時すぎ    市民病院からこども病院へ受け入れ要請

午前4時半前    こども病院が受け入れを回答

午前5時前     こども病院にヘリが熊本市を出たとの情報が入る

午前5時37分   ヘリが福岡空港離陸

午前5時50分   ヘリが6時10分に着くとの情報が市民病院に入る

午前6時すぎ    市民病院の男児を乗せた救急車が江津湖公園着

午前6時7分    ヘリが熊本空港着

午前7時7分    ヘリが熊本空港発

午前7時13分   江津湖公園にヘリ到着

午前7時50分   こども病院に男児到着


引用元:
熊本地震 大災害時の遠距離搬送 ヘリの機動性に限界 /熊本(毎日新聞)