口やその周囲に疾患を持つカンボジアの子どもたちに、堺市在住の 口腔こうくう 外科医・岩田雅裕さん(56)が無償で手術を続けている。

 15年前に始め、これまで約3000件に上る手術を手がけてきた。現地の大学で後進の育成にも力を注いでおり、今春、第1期生が巣立った。他のアジア各国からも支援要請があり、近くブータンでも治療を始める予定だ。

 岩田さんは、岡山大歯学部卒業。広島市立広島市民病院の歯科口腔外科部長だった2001年、知人に誘われ、カンボジア・シエムレアプの小児病院を訪れた。生まれつき唇の一部などが裂けている「 口唇口蓋裂こうしんこうがいれつ 」や、口の周りに腫瘍があるのに放置されている多くの子どもを目の当たりにした。

 早く手術すれば治る病気だが、カンボジアでは貧困や知識不足から手術を受けられない子どもが多いうえ、長く続いた内戦で医師や歯科医が少なく、中でも口腔外科医はほとんどいなかった。

 現地の病院関係者から「手術を手伝ってほしい」と頼まれ、年に3、4回、1週間ずつ休暇を取って自費で通い始めた。食事も取らずに5、6件の手術をこなした日もあった。

 09年に出会った当時7歳の少女ソクさんは、鼻から顎にかけて6センチ大の細菌性の腫瘍ができ、骨がゆがんで口がうまく開かず、表情を失っていた。父は地雷で両腕を失い家庭は貧しかった。現地の医師らと行った6時間に及ぶ手術で顔はすっかりきれいになり、元気に成長するソクさんの姿が岩田さんの支えだ。

 「必要とされる場所で多くの手術がしたい」との思いが強まり、13年9月に勤務先の病院を退職し、フリーに。ラオスやスリランカからも支援要請があり、現在はほぼ毎月、各地に出向いてメスを握るほか、新たにブータン政府からの要請も受け、支援内容の協議を進めている。

 カンボジアの口腔外科医を育てるため、首都プノンペンの大学で講義も始め、今春、岩田さんに学んだ初の専門医が卒業した。岩田さんは「国民皆保険制度がある日本では想像できないが、病院に来ても『お金がない』と治療を受けずに帰る人がいる。カンボジアの医療が形になるまで活動を続けたい」と語る。

引用元:
カンボジアで無償手術15年…口腔外科医・岩田さん、子ども3000件施術(yomiuri)