東京・東村山市の市立中学校が少なくとも2年余りにわたって「保健」の授業を行っていなかったことが分かりました。文部科学省は極めて問題だとして東京都教育委員会に対し、原因究明と未履修の生徒への対応を急ぐよう指示しました。




保健の授業が行われていなかったのは東京・東村山市の東村山第三中学校です。
国の学習指導要領では「保健体育」のうち、「保健」分野は中学3年間で48コマ程度授業を行うよう定められています。しかしNHKがこの中学校などに取材したところ、少なくとも平成26年度から今月にかけて2年余りの間、保健の授業を行っていなかったことが分かりました。
学校などによりますと、保健体育を担当する教員のうち1人は「年に1、2回授業をした記憶がある」と話していますが、ほかの教員は「全く行っていなかった」と話し、中には「10年にわたって全く保健を教えていない」と話している教員もいるということです。
保健の時間は体育の実技に充てていたということで、東村山第三中学校は「過去に学校が荒れていた時期があり、保健より体を動かす体育のほうが生徒指導に効果的だという考えから始まったようだ。あしき慣習が続いてしまい不適切だった」と話しています。
市の教育委員会もこの事実を把握していて、在校生に対しては卒業までに授業を行うよう中学校を指導したほか、すでに卒業した生徒についても、希望すれば夜間や休日に補習を実施する方向で検討しているということです。
文部科学省は極めて問題だとして、東京都教育委員会に対し原因究明と未履修の生徒への対応を急ぐとともに、再発防止策を示すよう指示しました。


「保健」健康で安全に生きる力を身につける

中学校の「保健」は、思春期の体の仕組みや病気の予防、薬物の危険などを学ぶことになっていて、3年間で48コマ程度授業を行うよう学習指導要領で定められています。
▽1年生では思春期の生殖機能の発達や性に関する適切な態度、ストレスとの向き合い方などを学び、▽2年生では交通事故や自然災害の要因を知って身を守る方法や、心肺蘇生といった応急手当てについても学びます。また▽3年生では、生活習慣病の予防や、喫煙や薬物の乱用が健康を損なう原因になることを学ぶことになっています。
子どもたちが生涯にわたって健康で安全に生きていくための基礎的な力を身につけるのが目的で、教科書には平成25年に運用が始まった「特別警報」や、若者を中心に乱用が問題となった「危険ドラッグ」など社会や制度の変化を反映した記述が盛り込まれています。教員はテストなどを行って生徒の理解度や意欲などを評価し「体育」と合わせて成績を示すことになっています。


生徒「保健の授業やテスト受けたことない」

東村山第三中学校に通う女子生徒は「保健の授業はほとんどやったことがなく、内容もあまり記憶にありません。保健は大切だと思うのでやったほうがいいと思っていました」と話していました。
また男子生徒は「体育の実技ばかりで保健の授業やテストを受けたことはありません。やるべきことをやっていなかったとしたら、ちょっとどうかなと思います」と話していました。


専門家「従来から軽視されがち」

「保健体育」の学習指導要領の検討に携わっている東京学芸大学の渡邉正樹教授は「保健は従来から体育に比べて軽視されがちで、学習指導要領どおりに行っていない学校もあるのではないかと指摘されていた。高校では保健と体育が科目として分かれているが、中学校では体育だけ実施しても成績を出せてしまうこともあって未履修が起きるのではないか。保健の授業は子どもたちが人生を豊かに生きる力を養う重要なもので、ほかの学校でも未履修がないか国や教育委員会はしっかりと実態を把握し対策を講じていくべきだ」と話しています。


未履修 ほかの中学や高校でも

学習指導要領で定められている内容の未履修は過去にも高校で明らかになり、大きな問題になりました。
平成18年、富山県などの県立高校で必修科目の「世界史」を教えていなかったことが発覚し、その後、全国各地の高校で「世界史」「日本史」「地理」それに「情報」なども未履修となっているケースがあることが相次いで分かりました。
当時、文部科学省が行った調査では、問題があった高校は全体のおよそ12%に当たる663校に上り、多くの生徒が補習を受ける事態になりました。

中学校についても調査が行われた結果、国公立の中学校で未履修は確認されなかったものの、私立の70校で「書写」の授業を定められた時間どおり行っていなかったほか、「技術家庭」や「音楽」などについても72校で問題が明らかになりました。


引用元:
東京・東村山の中学校「保健」の授業を2年以上行わず(NHK)