「マタニティマーク」をご存知でしょうか。ピンクのハートの中にお母さんと赤ちゃんのイラストが描かれているもので、作られてから、ことしでちょうど10年になります。しかし、この「マタニティマーク」、ここ数年、使用をためらう人が増えていて、今週、ネット上でも話題となりました。いったい、なぜ? その理由を調べてみると、子育てに不寛容な風潮とそれに萎縮する妊婦さんの姿が見えてきました。




マタニティマークとは

妊娠中、特に妊娠初期は、赤ちゃんの成長はもちろん、母体の健康を守るためにも大切な時期です。妊娠初期は、つわりなどの症状に悩まされる女性も多く、心身ともに大変な時期なのですが、外見からは妊娠していると分かりづらいため、周囲からの理解が得にくい時期でもあります。
そこで、今から10年前に作られたのが、「マタニティマーク」です。このマークを身につけることで周囲に妊婦であることが伝わり、配慮してもらいやすくすることがねらいです。妊娠中の女性が安心できる社会環境作りを進めようと、多くの自治体が母子健康手帳と合わせて「マタニティマーク」をあしらったグッズを配布しているほか、首都圏では20の鉄道事業者が駅でマークをあしらったマスコットを配布しています。
ネット上では「外出する際のお守りでした」「電車で席を譲ってくれたり、優しい人が多くて、びっくりする」といった投稿も見られます。しかし、その一方で、ここ数年、妊娠してもマークをつけないという女性が増えてきているというのです。

マークをつけると「かえって危ない」

「マタニティマーク」をあしらったグッズを全国およそ250の自治体向けに販売している岐阜市の会社では、全国の企業の協賛を受け、マークの普及につなげようと個人向けにもマスコットの無料配布を行っています。会社によりますと、このマスコット、かつては年間およそ1万個の申し込みがありましたが、2、3年前から申し込みが減り、今では10分の1の、年間およそ1000個にまで落ち込んでしまったということです。
なぜ申し込みが激減したのか。理由は「マタニティマークをつけていると、逆に嫌がらせを受けることもある」というネットの情報が広がっているためだというのです。これを裏付けるように、今週、ネット上では、「うちの妻もマークをつけても意味がないと言ってた。おなかをたたかれたり座ろうと思ったら押されたりした」「姉も『かえって危ないから』とつけていなかった」、さらには「私が通っていた病院ではマタニティマークはつけないようにと指導されました」といった投稿が相次ぎ、話題となりました。
こうした状況に、マークをあしらったグッズを販売している会社の担当者は、「『マタニティマーク』は本来、『妊婦さんだと気付いたら思いやりを示そう』というキャンペーンの象徴だったはずなのに、その趣旨が理解されていないのは非常に残念。『思いやりを強要している』と受け止められてトラブルになるのではと萎縮してしまう妊婦さんも増えている」と、マークの趣旨が理解されていない状況を懸念しています。

「子どもや保護者に不寛容な社会に」

しかし、この問題は「マタニティマーク」の趣旨が理解されていないことだけが原因なのでしょうか。
地域での子育て支援について研究している日本福祉大学の渡辺顕一郎教授は、「実際に、妊娠中の女性が体調不良などで困っていても手助けしてもらえなかったり、子どもの声や足音がうるさいと言われて、なるべくひっそりと生活しているという声も聞く。妊娠している女性だけでなく、子どもたちやその保護者に対して社会が不寛容になり、こういった人たちが周囲に過剰に気を遣わなければならない状況になっている」と指摘しています。
そのうえで渡辺教授は、「都市化が進み、地域の人との結びつきが弱まったことで子育ては『ひと事』になってしまっているのではないか。都市部で見られる保育園の建設反対運動もその一例で、本当に人口減少を深刻な課題だと捉えるのならば、子どもを産み育てることに対する社会の不寛容さや無関心を変えていかなければならない」と話しています。


引用元:
News Up マタニティマークがつけられない!?(NHKニュース)