性の乳がんに対する危機意識が高まっている。昨年は、タレントの北斗晶さんが乳がんを発症していたと大きく報道され、先日も声優・水谷優子さんが乳がんのため死去された。女性にとって、身近にあるとても怖いリスクとなっている。その乳がん、実はアルコールと深い関係があるという。そこで今回は、お酒と乳がんの関係についてまとめた。

昨年、タレントの北斗晶さんが乳がんに罹患したことを発表されたことで、今まで以上に乳がんに対する危機意識が高まった。その影響もあって乳がん検診を希望する女性で、乳腺科の予約が取りにくいという状況がしばらく続いていたという。筆者も年に一度は必ず乳がん検診をしているが、このときばかりは検査結果が陰性であっても不安になったし、夫からも再度の検診を勧められた。いつも元気印の北斗さんと、乳がんというフレーズが当てはまりにくいからか、この一件は、女性はもちろん、パートナーのいる男性にとっても衝撃的だったようだ。

乳がんの罹患率が急上昇している
 乳がんとは乳腺から発生するがんで、ご存じのよう乳房にできる。乳がんの約70〜80%は女性ホルモン(エストロゲン)の刺激が主な原因とされている。昨今は初潮が低年齢化すると同時に、閉経年齢が上がっており、エストロゲンにさらされる年数が長くなっている。こういった背景から、乳がんの罹患率が上がっている。

 実際に、1980年と2003年のデータを比較してみると、乳がんの罹患率は明らかに増えており、さらには40歳以降、特に閉経後の乳がんが増えていることがわかる。2015年のデータによると乳がんに罹患した人は8万9000人と、80年代の実に4倍以上に増えているのだ。

もはや乳がんは珍しい病気ではない。そして恐ろしいことに、「乳がんは飲酒とふか〜い関係にある」という。実は当コラムでも以前、このことを少しだけ紹介している(「健康効果というと、なぜ赤ワインばかりが取り上げられるのか」の回をご参照ください)。このとき話を聞いてから、個人的にずっと気になっていた。

 その後、周囲の女性、何人かにこの話をしたのだが、ほとんどの人は知らなかった。ううむ、世の中の女性の多くはリスクがあることを知らずに、お酒を飲んでいるのか。ここは事実とそのリスクの度合いをきちんと探求せねばならない。そこで、日本乳癌学会理事長で、昭和大学医学部乳腺外科教授、昭和大学病院ブレストセンター長の中村清吾教授に詳しい話をうかがった。

飲酒は乳がんの発症リスクを高める
 「アルコールは乳がんの発症リスクを高めます。お酒を飲む人と飲まない人に分けて症例対象研究をした結果がいくつも出ているのですが、どの研究でも、飲まない人に比べてお酒を飲む人の方がリスクが高まるという結果が出ています。そして飲む量が多くなるほど乳がんの発症リスクは確実に高くなると言われています」(中村教授)

 中村教授ははっきりとこう言った。酒を飲むほど乳がんのリスクが上がるなんて、左党の女にとっては他人事ではない。

 世界的に権威のある世界がん研究基金(WCRF:World Cancer Research Fund)、米国がん研究協会(AICR:American Institute for Cancer Research)によるエビデンスグレードでも、リスクは「ほぼ確実」と判定されている。これは「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「証拠不十分」「大きな関連なし」という5つのグレードの中の上から2つめ。アルコールが乳がんに及ぼす影響はただものではないようだ。

 「WCRFが2007年に出版した報告書でも、『アルコール飲料が閉経前乳がんと閉経後乳がんの原因になるというエビデンスは確実である』と発表されています。リスク増加の度合いは、6〜10%と決して高くはありませんが、アルコールが乳がんの発症リスクを高めるのは間違いないでしょう」(中村教授)。

 国立がん研究センターが、国内で日本各地の40〜69歳までの女性約5万人を対象にして13年間にわたって行われた多目的コホート研究の結果でも、「アルコール摂取量が多いほど、乳がんになりやすい」という結果が出ている。特に週にエタノール換算で150gより多く飲むグループは、全く飲んだことがないグループに比べ、乳がんの罹患率が1.75倍も高いという結果になっている。

なぜアルコールは乳がんのリスクを高めるのか
 ううむ、国内外での研究からリスクの存在を指摘されてしまうと、さらに気弱になってしまう。では一体、アルコールに含まれる何が乳がんの罹患率を高めてしまうのだろう?

 「アルコールと、アルコールが分解される際に生成されるアセトアルデヒドが持つ発がん性、アルコールの代謝に伴う酸化ストレス、性ホルモンレベルの増加、葉酸(DNA合成・修復に必要)の欠乏など、さまざまなことが要因として指摘されています。ただし、実際には明確な理由がわかっていないのが現状です。コホート研究のデータを見ても、アルコールの量が増えると乳がんの発症リスクが高くなるのは明らかですが、現状では正確な量までは確定できていません」(中村教授)

 なるほど、現時点では、正確な因果関係はわかっていないようだ。だが、酒量が多くなるにつれ、発症リスクが高くなるのだから、飲酒量を増やさないに越したことはない。では、酒量はどのくらいに抑えるといいのだろうか。中村教授によると、「あくまで目安ですが、一般的に、日本酒なら1日1合以内、ビールなら中ジョッキ1杯、ワインならグラス2杯くらいならリスクは少ないと言われています。ただし、これも明確な裏付けがあるデータではありません。先ほども話したように、多ければ多いほどリスクは高まりますので、飲み過ぎには注意が必要です」とのこと。

 では、「お酒に強い弱い」というアルコールに対する耐性は影響するのだろうか。「明確なメカニズムがわかっていないので、あくまで推測ですが、アセトアルデヒドが原因の一つにあげられていますので、アルコールの分解能力が低いお酒に弱い人の方がリスクが高まる可能性があります」(中村先生)。お酒に弱い人に、お酒を無理に飲ませてはいけないというのは、こうした点からも言えることなのだ。

アルコールはもちろん、肥満に注意すべき
 左党の女としては悲しい限りだが、乳がんのリスクを考えると、お酒は控えめにした方がよいのだろうか? だが、リスクがあると言っても、問題はそのリスクの大きさだ。お酒を控えても、もっと大きなリスクを見逃していたら意味がない。実際のところ、飲酒はどのくらい気をつけるべきなのだろうか。

 教授に「やっぱり女性はお酒を控えた方がいいのですか」と泣きつくと、ちょっと安心する一言をいただけた。

 「アルコールが乳がんリスクを高めることは確かですが、過度に心配する必要はありません。乳がんリスクを高める要因として、今、最も危険視されているのは「肥満」、もう一つは「運動不足」です。肥満や運動不足によるリスクの方が、アルコールに比べて大きいのです。また、国際的には飲酒は確実なリスク要因になっていますが、日本人のエビデンスでは『データ不十分』という評価になっています。ただ、だからと言って安心して飲み過ぎないようにしてくださいね」(中村教授)。

 そうか、暗闇で一瞬光を見出したが、「肥満」という言葉を聞いて、再びびくっとする。おつまみをつまみながら酒を楽しむ左党にとって、肥満も切実な問題だからだ。

 「肥満は乳がんと密接な関係にあり、特に閉経後は顕著です。閉経後は卵巣機能が衰え、エストロゲン(女性ホルモン)が減少するので、乳がんのリスクは軽減されると考えられます。しかし肥満となると話は別です。その原因は乳腺の脂肪組織などに存在する酵素・アロマターゼにあります。アロマターゼには、コレステロールを出発点に生成される男性ホルモンの一種アンドロゲンをエストロゲンに変換する働きがあり、アロマターゼの活性は肥満の人ほど高くなるのです。つまり乳腺組織の中でエストロゲンが作られやすくなる。これが閉経後の乳がんの罹患率が上がる大きな要因とされているのです」(中村教授)


 閉経後は脂肪がエストロゲンの大きな供給源になるなんて! 自分の周囲を見渡しても、左党の多くはお世辞にもスリムとは言えない体型だし、肥満が原因による痛風やら糖尿病の投薬をしている人も少なくない。WCRF/AICRのエビデンスグレードにおいて、肥満は閉経後では「確実」だという。ああ、痩せなくちゃ…。

大豆や乳製品と乳がんの関係は?
 中村先生によると「食の欧米化も乳がんの発症率を増加させている原因の一つ」だという。農林水産省の「食品需給表」を見ると、2004年には米から摂取するカロリーは1日の食事の4分の1以下となり、代わりに畜産物油脂類からの摂取量が4倍以上となっており、摂取カロリーも1960年と比較して300kcalも増えている。酒のいいアテとなるのは、油っこいハイカロリーなものばかり。飲酒量はもちろんのこと、一緒に食べるおつまみにも気を使わねばならない。

 おつまみといえば、大豆のイソフラボンが乳がんの再発リスクを低くするとか、逆にチーズをはじめとする乳製品は乳がんになりやすくするという噂もある。これが本当であればおつまみも選びやすくなりそうだが、その実は果たして?

 「大豆は予防の可能性があるとの報告もありますから、摂取して悪いことはありませんが、より多く摂ることでリスクを下げるといった効果は期待しない方がいいでしょう。イソフラボンが乳がんのリスク減少に良いと聞いてサプリメントで補おうとする方がいますが、医師の立場からはおすすめしません。また、乳製品においてはリスク要因になるかどうかは賛否両論あり、証拠不十分となっています」(中村教授)

 なるほど、何か食べ物を摂取して乳がんのリスクを避けようという方法は捨てた方がよさそうだ。

運動も乳がん罹患率を減少させる
 中村先生は、乳がんリスクを避けるもう一つの方法として「運動」を勧める。

 「痩せるということにつながるかもしれませんが、運動は乳がん罹患率を減少させます」(中村教授)。閉経前後に関係なく、運動は体重維持、肥満防止につながる。生活習慣病を防ぐ効果もあるのだから、「やっぱり運動はしなければ」との思いを新たにした。



引用元:
お酒は控えた方がいいのか? 知られざる乳がんとアルコールの関係(nikkei BPnet)