マンモグラフィー(乳房X線撮影)によるがん検診の普及によって、腫瘍が2cm以下の「早期」で乳がんが見つかる人が5割を超えた。1cm未満で見つかる乳がんも増えるなか、注目されるのが、乳房にメスを入れない「ラジオ波熱焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)」だ。その現状とメリット、デメリットについて、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)の乳腺外科長、木下貴之さんに聞いた。
乳房にほとんど傷がつかないのがメリット
ラジオ波熱焼灼療法(RFA)は、乳房の皮膚の表面から腫瘍に電極針(ニードル)を刺入してラジオ波を数分間流し、ニードル周囲を80〜90度の高温にして病変部を焼き切り、がんを死滅させる治療法だ。全身麻酔で実施することもあり、患者が痛みや熱さを感じることはない。肝臓がんでは2004年に保険適用となり、標準的な治療として多くの病院で普及している。
「ニードルを刺すだけなので、乳房にほとんど傷がつかないのがRFAのメリットです。乳がんでは00年前後に自費診療で、乳房温存療法よりも負担が少なく、乳房の形を元の通り保てる治療法としてRFAが急速に広がりました。ところが、3cmを超えるような大きながんをRFAで施術する医療機関もあり、腫瘍が焼き切れなかったために、手術をしていれば起こらなかったと思われる乳房内再発が相次ぎました。そして、10年に日本乳癌学会が『臨床試験として実施すべき治療法』と警告を出す事態になりました。他の病院でRFAを受けて当院へ来た患者さんのなかには、全身にがんが広がってしまった人もいました」。木下さんはそう解説する。
一方、乳がんになっても、「できたら乳房にメスを入れたくない」と考える女性は少なくない。病変部が小さくても乳房温存療法では、その周囲を含めて切除するために手術の痕がつき、多少は乳房が変形したり、手足がむくむリンパ浮腫に悩まされたりすることもあるからだ。
そこで、木下さんを中心とする同センターの研究グループは、どのくらいの大きさの乳がんならRFAで完治でき、患者さんの乳房を切らずに済むのか、安全性と効果を検証する臨床試験をRFAの乳房内再発が問題になり始めていた05年から開始した。
13年10月からは、「先進医療」としてRFAを実施している。先進医療とは、効果や安全性を検証中である新技術の部分は保険対象になっていないものの、診察料や入院料など、技術費以外の医療費については保険診療が認められている検査や治療法だ。
RFAの対象となるのは、腫瘍が1.5cm以下の乳がんで、リンパ節への転移や乳腺内に石灰化(カルシウムの沈着物)した病変部が広がっていない人。治療後5年間は定期的に検査と診察に通うことも条件になっている。将来的には日帰りで実施できる可能性もあるが、RFA実施時は4日間入院し、その後、がんを部分切除する乳房温存療法と同じように、乳房内の再発を防ぐために放射線治療を受ける。また、ホルモン療法や抗がん剤治療など、再発予防を目的とした薬物療法は、必要に応じて手術を受けた人と同じように行う。
デメリットは安全性と効果がまだ証明されていないこと
RFAで心配なのは、がん細胞が残って乳房内でまたがんが大きくならないのかという点だ。そのため、治療から3カ月後には、腫瘍のあった部分に針を刺してがん組織を吸引して採取する「マンモトーム生検」を行う。がん細胞が残っていなければ乳房にメスを入れずに済むが、がんの残存が見つかった場合には手術で病変とその周囲を取り除くことになる。美容面を最優先するあまり、乳房にメスを入れずにいて、がんが完治できなくなっては元も子もないからだ。
皮膚の表面から病変に電極針を刺し、高周波電流を流してがん細胞を死滅させる (木下貴之医師提供資料)
皮膚の表面から病変に電極針を刺し、高周波電流を流してがん細胞を死滅させる (木下貴之医師提供資料)
「乳房にほとんど傷がつかず合併症もほとんどない治療法ですが、デメリットは、まだ安全性と効果が世界的にも証明されていないことです。一方で、今回の臨床試験前に05〜09年に我々が行った研究では、2cm以下の乳がんなら90%はRFAで焼き切れることが分かっています。ただし、3カ月後にマンモトーム生検で見ると、病変部の周囲に微小ながん細胞が残っているケースが10%程度あります。早い段階で焼き残りを見つけることで乳房内再発を防ぎ、安全性と効果を検証したうえで将来的には保険適用につなげていきたい」と木下さんは話す。
現在実施中の臨床試験の前段階で、国立がん研究センター中央病院などでは、09年から13年3月までに1cm以下の乳がんのあった55人を対象にRFAを実施した。微小ながんが残っている疑いで乳房温存療法になった8人を除く47人は、いまのところ1例も再発していない。1.5cm以下の乳がんを対象にした現在の臨床試験で、再発率が乳房温存療法と同程度、もしくは低いことが証明されれば、保険適用に弾みがつく見通しだ。
全国8病院で実施
RFAを先進医療として実施しているのは、北海道がんセンター(札幌市)▽群馬県立がんセンター(前橋市)▽国立がん研究センター中央病院▽同センター東病院(千葉県柏市)▽千葉県がんセンター(千葉市)▽岡山大学病院(岡山市)▽広島市立広島病院(広島市)▽四国がんセンター(松山市)の全国8カ所。他に3病院が準備中だ。費用は病院によって異なるが、国立がん研究センター中央病院と東病院では、RFAが約17万円、入院費などが3割負担の人で約8万円かかる。医療保険やがん保険で「先進医療特約」を付けている人なら、自己負担分を保険でカバーできる可能性もある。
切らずに乳がんの完治を目指す方法としては他にも、金属製の針を病変に刺しマイナス160度に急冷してがん細胞を破壊する「凍結療法」や「集束超音波療法(FUS)」が試みられている。FUSは、専用の機器を使って超音波を一点に集束させ、がん細胞を死滅させる治療法だ。
「凍結療法やFUSも小さい病変部に限って実施すれば、RFAと同じように乳房を切らずに治せる可能性があります。ただ、凍結療法とFUSは専用の機器が必要で、治療費が高いのが難点です。これに対しRFAは、既に肝臓がんの治療として普及しているため、がん治療を行っている病院のほとんどに機器がある点も利点です」と木下さん。現時点では先進医療の実施施設に限られるものの、微小な乳がんが見つかったときには、選択肢の一つとして検討してみてもよいかもしれない。
引用元:
切らずに乳がんを治す?! ラジオ波熱焼灼療法(毎日新聞)