妊娠した。赤ちゃんが産まれた。自分は出産の痛みに耐えられるだろうか…。赤ちゃんをちゃんと育てられるだろうか…。
妊娠、出産前後は精神的に不安定になりがち
妊娠、出産は不安が尽きない。それに加えて、体のホルモンバランスも変わるので、心身が健康な女性であっても妊娠中や出産後は精神的に不安定になるものだ。
筆者も2人子どもがいるが、特に下の子を妊娠中に精神的に不安定になったのをよく覚えている。夫とのすれ違いが原因のけんかがきっかけなのだが、真冬の2月に、たったの2時間ではあったが1歳半の上の子を連れて、家出をしたことがある。今、思えば、なんであんなことを…と思うが、その時は必死な思いだった。
このような類いの経験は筆者だけではないはずだ。そして、悲しい現実だが妊娠中、産後の女性がうつ病などが原因で自殺しているという。
妊娠中、産後の女性の自殺 順天堂大学と東京都の調査で明らかに
妊娠中、産後の女性の自殺は東京23区内、10年間で63人。このような調査結果が順天堂大学と東京都の調査で明らかになった。赤ちゃんを授かって幸せ絶頂のはずの女性たちがなぜ…。
63人のうち、妊娠中の女性は23人。妊娠2カ月で自殺するケースが最も多く、4割の人がうつ病などと診断されていた。残りの40人は産後に自殺したケースだ。出産後4カ月が最も多かった。6割の人がうつ病などと診断されていた。
分娩時のトラブルや病気よりも死亡数の多い自殺
これまでにも妊娠中、産後の女性が死亡した事例は調査されてきたが、妊娠中や分娩(ぶんべん)時のトラブルや病気によるもので、自殺についてはこれまで実態が把握されてこなかった。
今回の調査で、自殺による死亡は、分娩時のトラブルや病気による死亡を合せた数よりも多いことが分かった。なんと1.5倍にも上る(※1)。
妊娠中の自殺が多い妊娠2カ月
今回の調査で自殺するケースが多かった妊娠2カ月。月経の遅れに気付いたり、つわりの症状が始まったりすることで、妊娠に気付く時期に当たる。だるかったり、吐き気があったりと体調の変化に戸惑う人も多い(※2)。
こうした時期に、その妊娠が、望まぬ妊娠だったり、予期せぬ妊娠だったりしたら…。ますます気持ちは落ち込むということも考えられる。
産後自殺の多い、生後4カ月の時期
そして産後では生後4カ月で自殺というケースが多かった。生後4カ月ともなると、これまでスヤスヤと寝てばかりいた穏やかな赤ちゃんの姿から、喜怒哀楽が表れ始める時期に入る(※3)。
気に入らないことがあれば、ものすごいけんまくで泣き続けることもあるし、どうしていいのか分からず、母親自身が泣きたくなることもあるだろう。周囲に頼る人がいなければ、孤立してしまう場合もある。
調査した順天堂大学の竹田省教授は、「妊産婦死亡“ゼロ”への挑戦」とする講演を日本産科婦人科学会で行った。自殺のリスクが高い女性を医療と行政が連携してフォローする必要があると話す(※4,5)。
周りの誰でも、悩んでいるお母さんを救うことは可能
出産後は特に赤ちゃんのお世話で家にこもりがちになる。それが孤立を招く。
誰かがちょっと声を掛けてあげていたら防ぐことができた自殺のケースは確実にあっただろうと想像される。病院や保健所などでいつでも相談できる体制はどんどん整ってきていると実感している。
でも、そんな大それた相談でなくとも、赤ちゃんとお散歩で出掛けた公園で出会った子育て中のお母さん。スーパーで「あら、かわいい赤ちゃんね」と声を掛けてきたおばさん。誰でもいいのだ。自殺を考えるほど悩んでいる妊娠中、産後の女性を救える人は、本当はたくさんいるはずだと思う。
引用元:
分娩トラブルや病気より多い「妊娠中・産後女性の自殺」を食い止めろ(CIRCL)