代理出産は、今や世界規模で行われている。卵子と精子が別々の国から提供され、代理母はカンボジアの女性ということもありうる。そして、卵子などの輸送専用のコールドチェーン(低温流通体系)も存在する。

代理出産は、いまや世界規模で行われている。卵子は南アフリカの女性、精子はカナダの男性が提供し、代理母はカンボジアの女性ということもありうる。そして、彼らを物理的につなぐ専用のコールドチェーン(低温流通体系)も存在する。

一般的なコールドチェーンは、冷蔵トラックと運送用コンテナを使い、中米のバナナやアジアの海産物、欧州のワクチンなどを完璧に保存された状態で運ぶものだ。しかし、体外受精による代理出産に使われる、細心の取り扱いが必要な卵子、精子、胚を世界各地に運ぶには、専用のコールドチェーンが必要となる。子どもを望む人たちにとって、これらはどんな貨物より貴重なものだ。

凍結細胞は、ただ低温を保てばいいわけではない。摂氏マイナス約151度といった極低温にする必要がある。「その温度であれば、すべての細胞プロセス(代謝や分泌など)が停止します」と、米国にある卵子バンク「World Egg Bank」の発生学者キンボール・ポメロイは説明する。温度が摂氏マイナス約120度を上回ると、精子や胚の細胞プロセスは一部再開してしまう。卵子に及ぼす影響はより深刻であり、誤った条件下で温度が上がると、卵子を満たす液体がカミソリのようにとがった氷の結晶となってしまうという。

極低温にするために重要なのは液体窒素だ。だが、凍結細胞が入った魔法瓶に液体窒素を注げばいいという単純なものではない。密閉容器の中で液体窒素が自由に動けば、気化して膨張し、爆発する危険があるからだ。生体物質の輸送を専門とするCryoport社では、ケイ酸カルシウムのスポンジに液体窒素をしみこませ、10日間かけてゆっくりと放出する方法を取っている。

液体窒素に浸したケイ酸カルシウムと凍結物質は、デュワー冷却器の中に入れられる。デュワー冷却器とは高性能の魔法瓶のようなもので、中に入れた物の周囲を真空状態で覆って断熱する。このデュワー冷却器を、貨物の温度、気圧、振動、露光量などを記録する各種センサーとともに、箱の中に納める。そして輸送中は、積み荷の現在位置をGPSで追跡する。これだけ手間をかければコストが高いのは当然で、国際輸送の送料は1,000ドルを超えることもある。

CryoportのCEO、ジェレル・シェルトンによれば、同社の体外受精関連輸送の20パーセントが医療機関からの発注で、残り80パーセントは、同社のことをGoogle検索やネット掲示板、口コミで知った、子どもを望む人たちからの直接オーダーだという。

Cryoportは最近、卵子の提供者が多いチェコ共和国のほか、カンボジアにもビジネスを拡大した。カンボジアは、隣国のタイで代理出産が禁止されて以降、代理出産ビジネスの新たな舞台となっている。

体外受精用の凍結物質の輸送に商機を見出しているのはCryoport社だけではない。DGI社やMarken、SFS Globalなどの物流会社も参入している。

「どこで代理出産が行われるかは、その地域の法律によって決まります」と語るのは、代理出産の仲介を行うAgency for Surrogacy Solutionsの社長、キャスリン・ケイコフだ。米国では代理出産で報酬を得ることが法律で認められているが、州によって細かい規制が異なる(ニューヨーク州は規制が厳しく、カリフォルニア州はゆるやかだ)。しかし、米国での代理出産は非常に高額となるため、国外に目を向ける希望者もいる。

安価な卵子が手に入る可能性があるのは、南アフリカやキプロス、スペイン、ウクライナなどだ。また、かつてはインドで代理出産が盛んだったが、法律で禁止されてからはネパールが人気を集めた。しかしその後、ネパールでも禁止されたため、現在はカンボジアでの代理出産が増えている。

ケイコフ氏が現在手掛けている案件では、オーストラリアの顧客が、代理出産用に凍結胚を米国に輸送しようとしているという。オーストラリアでは、代理出産で報酬を得ることが法律で禁じられているのだ。現在胚を保管しているオーストラリアのクリニックは、有償の代理出産目的で胚を米国へ輸送することを拒んでいる。そのためケイコフ社長は目下、胚をオーストラリアにある別のクリニックにいったん送らせて、そこから改めて米国へ発送する方法を試みているという。

凍結胚を国際的に輸送することは、技術的には可能だ。しかし生体の輸出には法的な問題が絡んでくる。「チョコレートを送るのとは違うのです」とケイコフ社長は述べる。


引用元:
精子や卵子が国際的に流通する「代理出産」ビジネスの現在(WIRED.jp‎)