今を読み解く「ユアタイム・フォーカス」。
将来の妊娠や出産に備えて、卵子を凍結して保存する女性が増えているということです。
2013年に、卵子凍結に関するガイドラインが定められたことが、大きなきっかけになっていて、今では、50以上の医療機関で実施されているといいます。
女性にとっては、出産を焦らなくても済む環境が広がる一方で、晩婚化が進むのではないかといった懸念も指摘されています。
ガイドラインから3年がたった今を取材しました。

今、日本人女性の平均初産年齢は30歳を超え、年々上昇傾向にある。
日本産婦人科学会によれば、日本の女性は35歳を過ぎると、妊娠及び出産率が落ちていくとされている。
その原因は、卵子の老化ではないかといわれている。
そこで注目されたのが、卵子の凍結保存。
その医療機関の1つ、福岡・北九州市の「セントマザー産婦人科医院」。
これまでに、この医院で卵子凍結をした人は31人で、そのうち13人が体外受精を行い、2人がめでたく出産、現在も1人が妊娠継続中。
実際に卵子凍結を行った女性は「この一瞬しかない。その一瞬のために、自分のできるベストは尽くしました」と話した。
卵子凍結を望む女性たちと、その望みをかなえる医療機関、それぞれの今を見つめた。
卵子を凍結し、保存するために、超低温状態を作り出す特殊なタンク。
中に、-196度の液体窒素が入っている。
凍結した卵子は、患者ごとに、「ケーン」と呼ばれる金具に固定され、さらに、タンクからの出し入れが素早くできるよう、小分けの容器に収納される。
では、卵子は、どのように凍結されるのか。
患者は、事前に薬を使って、卵巣に複数の卵子を作り出している。
医師は、超音波エコーで観察しながら、卵巣に針を差し込み、排卵直前になった卵子を吸引していく。
卵子は、直径わずか0.1mmの細胞。
精子や受精卵と比べ、卵子は水分を多く含んでいる。
そのため、凍らせると水が結晶化し、卵子は膨張して壊れてしまう。
そこで、卵子の水分を特殊な溶液と置き換える。
水分が抜けて、しぼんだ卵子。
およそ15分たつと、特殊な溶液に満たされ、元通りの大きさになる。
最後は、凍結専用のシートに卵子を載せ、液体窒素に入れて瞬間凍結させる。
ここでは、卵子凍結の費用は、1回35万円。
さらに、卵子1個につき、1年ごとに保管料1万円。
卵子凍結は、そもそも、がん医療などの医学的な理由で始まったが、晩婚化などを背景に、3年前、日本生殖医学会が、卵子凍結は40歳まで、受精卵の移植は45歳までと、そのガイドラインを定めたことで、健康な女性にも注目されるようになった。
不妊治療の世界的な権威、セントマザー産婦人科医院院長の田中 温医学博士は「凍結する時に、僕は必ず言います。なるべく40歳までに、卵子の老化を防ぐ意味で、なるべく早く凍結してくださいと。出産も、なるべく早く終わらせてください。これは、母体のリスクを上げないためです。それが条件です」と話した。
卵子凍結への関心が高まる一方で、その医療行為そのものの意義を問いかける医師もいる。
東京・千駄ケ谷にある、「はらメディカルクリニック」。
これまで、32人が卵子凍結をしたが、現在、新規の凍結は受け付けていない。
院長の原 利夫さんは、その理由について、利用者が当初の予想とかけ離れていたからだという。
原院長は「キャリアレディー、年齢37〜38歳くらいで、原則、既婚者だった。ところが、実際に集まっているのは、独身で、キャリアレディーでもない、ただ婚期が遅れていると。本人だけじゃなくて、お母さんもついて来る。そういう人は、最後、結婚相手を紹介してくれという話になってきて。医療とかけ離れてきたので、卵子凍結をやめた」と話した。
現在、独身のAさんは、38歳。
短大を卒業し、貿易関係の仕事に就いている。
彼女は、2016年、2回の手術を受け、20個の卵子を凍結した。
費用は、およそ80万円。
卵子の保管料として、これから毎年20万円を支払う。
高校と短大を女子校で過ごしたというAさん。
短大のころは、朝から晩まで勉強ばかりで、遊ぶ時間がなかったという。
Aさんは「寮生活だったので、門限もあり、厳しかった。合コンも、1度、おつきあいで、卒業までに2度くらいしか」と話した。
20歳で就職、ほどなく彼氏ができたが、長くは続かなかった。
結婚より、仕事を優先したため。
20代の終わりから、Aさんの友人が、次々と結婚し始めた。
徐々に、プレッシャーを感じるようになった。
Aさんは「毎年1つずつ、年を取っていくにしたがって、卵子の老化も始まっていて、安全に産める状態ではない。確率も低くなってきていると認識し始めてから、少しでも若いうちに、卵子を凍結したいと思うようになりました」と話した。
卵子凍結をしたAさん。
不思議なことに、それまでの焦りや不安が、少し消えたという。
Aさんは「安心感ですね。自分の一部として使える卵子が、保存されている。妊娠と出産のタイミングを自分で選んでいけるので、安心している。(Aさんにとって卵子凍結とは?)お守り...。時間が止まったお守りですね」と話した。

引用元:
卵子凍結を望む女性たち 医療現場の今を取材しました。(FNN)