局所麻酔で出産時の痛みを和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」。2016年5月に第1子の出産を予定している記者も、「痛みが少なく、産後の体力回復が早い」と聞き、興味を持った。でも、麻酔を使うことで赤ちゃんに影響はないのか。そもそも日本国内で実施率が低いのはなぜだろう……。さまざまな疑問が浮かぶ。そこで4月、埼玉医科大総合医療センター産科麻酔科診療部長の照井克生医師に、無痛分娩のメリットや注意点を聞いた。【塩田彩】




 無痛分娩の方法は、背中の腰あたりから管を入れて麻酔薬を注入し局所麻酔をかける「硬膜外鎮痛法」が主流だ。今回は硬膜外鎮痛法による無痛分娩を取り上げる。



 出産の痛みは、赤ちゃんを体外に出そうと子宮が収縮して起こる痛みと膣(ちつ)などが広がることで起こる痛みがある。無痛分娩では、この痛みが脳に伝わるのを麻酔でブロックする。



 痛みのみを和らげるので、赤ちゃんが生まれてくる感覚は残る。通常は子宮口が数センチ開いたのを確認してから麻酔薬を入れるため、最初からまったく痛みを感じないわけではないという。照井医師は、「痛みの感じ方は人それぞれで、ほとんど痛みを感じない人もいれば痛みを訴える人もいる。まったくの無痛、無感覚ではないと考えておいてほしい」と話す。



 無痛分娩のメリットは、痛みが少ないため、母親が痛みでパニックにならずにお産を経験できることだ。痛みによる体の緊張も少なく、産後の体力回復が早いとも言われている。また、母親の呼吸が安定することなどから赤ちゃんへの酸素供給量が増えるという報告もある。



 一方、出産時間が通常の分娩より長くなり、鉗子(かんし)・吸引分娩の実施率が高くなるという統計もある。原因は特に分かっていないが、照井医師は「痛みが和らぐことで、お母さんのいきむ力が弱くなり、結果として時間がかかるのかもしれない」と推測する。



 麻酔薬を使うことで赤ちゃんに影響はあるのだろうか。照井医師によると、母体に注入された麻酔薬は、少量が胎盤を通じて赤ちゃんに移るが、呼吸が弱くなるなどの影響は報告されていないという。



 母親の体の状態によっては、硬膜外無痛分娩ができない場合もある。産科麻酔科学会によると、血液が固まりにくい▽出血しやすい▽背中の神経に病気がある――などだ。また、母体にはまれに深刻な合併症を引き起こすリスクもある。麻酔によって血管の緊張がとれることで引き起こされる血圧の低下もそのひとつ。母親の血圧が低下しすぎると、赤ちゃんに負担がかかる場合がある。お産の間は血圧計などをつけ、母親の血圧をこまめにチェックする必要がある。



 また、麻酔注入の際に誤って脊髄(せきずい)の近くや血管に管が入ってしまう場合がある。そのまま一度に大量の麻酔薬を注入してしまうと、麻酔が強く効きすぎ、母親が意識を失うことも。その場合は緊急帝王切開が必要となることもある。照井医師は「麻酔薬を一度に注入するのではなく、母体の容体をみながら少量ずつ入れることでそうした危険を回避できる」と、医療者に慎重な処置を訴える。



日本の実施率は推計2.6%



 無痛分娩は、陣痛が始まると腰付近から脊髄を包む硬膜の外側に管を入れ、麻酔薬の注入を始める。この間妊婦は、分娩台の上で横になって休む。麻酔薬の注入は、お産が終わるまで続けられる。作業は麻酔科医が行うこともあれば、施設によっては産科医が行う場合もある。



 麻酔を扱える人員に限りがあるため、出産日をあらかじめ決め、薬などで陣痛を誘発させる「計画分娩」にする施設も多い。また、麻酔が効くと陣痛を促進するホルモンの一種「オキシトシン」の分泌が減るため、陣痛促進剤を投与する場合が多いという。



 日本産科麻酔学会によると、無痛分娩の実施率は、日本国内で推計2.6%なのに対し、フランスでは約80%、アメリカでも約60%と高い。日本で普及が進まない理由として照井医師は、「日本ではまだ『子供はおなかを痛めて産むもの』という意識が強いのではないか」と指摘する。麻酔を扱う産科麻酔科医の人材不足も背景にあるという。



 現在、国内では無痛分娩の手順に関する医療者向けの共通ガイドラインは存在しない。安心して処置を受けるためには、病院などで説明を受ける際、メリットだけでなく、合併症などのリスクについてもきちんと説明を求めたい。また、万が一危険な状態に陥った場合は、どのような体制でフォローするのかなども確認しておこう。


引用元:
無痛分娩のメリットと注意点は?(毎日新聞)