「未来[みらい]」と名付けた息子は、被災後に生まれた8人目の子ども−。益城町宮園の尾崎善隆さん(35)清美さん(31)夫婦は熊本地震で被災し、避難中に三男未来ちゃんの産声を聞いた。困難な生活は続くが、10人の大家族が未来を見つめる。

 4月14日。2階建てアパートの1階に暮らす尾崎さん一家はそろってリビングにいた。木山中2年の長女綾音[あやね]さん(13)や益城中央小6年の次女沙彩[さあや]さん(11)は勉強中。ほかのきょうだいは6歳から1歳までにぎやか。そんなだんらんを震度7の激震が襲った。

 「みんなで手を握りあって…。私は転ばないようにと懸命に逃げました」と清美さん。アパートは倒壊を免れたものの、近所の民家はつぶれ、火の手も上がる。徒歩でたどり着いた近くの駐車場で一夜を明かした。

 出産予定は27日。「無事に生まれてきてほしいとずっと祈りました」。熊本市東区のスーパー駐車場で親戚の車に分乗し、体を横たえていた16日未明の本震。泣き叫ぶ子どもたちを落ち着かせながらも、清美さん自身が恐怖に体を硬くした。おなかの子どもも硬直していると心配したが、「しっかり動いていて驚いた」。

 17日に熊本市東区の県民総合運動公園に移り、車中泊を続けた。避難所になったと聞いた益城幼稚園に入った22日の昼すぎ、陣痛が始まった。通院中の益城町内の病院は断水で出産できず、主治医が手配してくれた東区の熊本赤十字病院へ善隆さんの車で急行。午後10時21分、2900グラムの赤ちゃんが生まれた。避難生活に疲れた清美さんの負担をできるだけ和らげるような安産だった。

 未来と名付けたのは善隆さんの母である祖母の川野康代さん(55)。「震災が起こったけれど、一歩ずつ明るい未来を切り開く」。そんな思いに夫婦も納得したという。

 5月6日、仮住まいに選んだ東区のアパートに入った。会社勤めの善隆さんは7日、益城町の自宅から荷物を運び出しながら「家族を守るため、生活を立て直さないと。これからも支え合って、普通の生活を取り戻す」と汗を拭った。

 8日は母の日。「頼もしくて、優しいお母さん」。被災しながら新しい命を産み落とした清美さんに、子どもたちはプレゼントを用意した。「みんなで感謝のメッセージを書きました。中身は秘密です」。綾音さんが笑った。(池田祐介)

引用元:
避難の中生まれた「未来」 被災中に8人目出産(熊本日日新聞)