不妊治療を始める際に、女性の卵巣に残る卵子数の目安を、血液検査で調べる産婦人科が増えている。卵子が多いと数値が高くなる女性ホルモン「アンチミューラリアンホルモン(AMH)」を調べる検査で、手軽に目安が分かるのが特長。今の卵子数を知れば、その夫婦に有効な治療法を選ぶ判断材料になる。

 名古屋市の女性(34)は、結婚して一年たっても妊娠しなかったため産婦人科を受診。昨年末、この検査を受けた。その結果、「数値は想像以上に低く、ショックでした」。

 子宮に精子を人工的に注入する人工授精をこれまでに三回行ったが、次は子宮内から取り出した卵子を体外で精子と受精させ、受精卵を子宮に戻す体外受精にするつもり。妊娠する可能性がより高いとされる治療法だ。

検査を受けるのは勇気が必要だったが、結果を知って、早く体外受精をやったほうがいいと踏ん切りがついた。妊娠できないわけではないと分かったので、治療をがんばりたい」と前向きだ。

 不妊治療専門の浅田レディース名古屋駅前クリニック(名古屋市)の浅田義正院長によると、妊娠するかどうかにもっとも影響を及ぼすのは、卵子の数と状態だ。

 卵子は女性が胎児のうちに作られ、出生時には約二百万個ある=グラフ参照。出生後に卵子は減っていくだけで、新たに作られることはない。初潮を迎え、生殖可能となる思春期ごろには、十万〜三十万個になり、さらに毎月およそ千個が減っていく。

ただ、卵子の残数は個人差が大きく、いつなくなるのか分からない。残り少なくなっても自覚症状が現れることはなく、知らぬ間に減って、妊娠可能性が低下していくという。

 そこで、残数を推測するために用いられるのがAMH検査。AMHは、卵巣の中で卵子を包む卵胞が成熟する過程で放出されるホルモン。卵巣に残された卵子数が多いと数値が高くなり、少ないと低くなる。

 ただ、「AMH値が低くても、異常ではない。絶望しないで」と浅田院長。AMH値が低い場合は、「妊娠しないのではなく、妊娠する可能性のある期間が限られている」ことを示し、体外受精などの治療で妊娠できる可能性は残されているという。

 逆に、AMH値が高くても、加齢により卵子が老化していれば、妊娠しにくく流産の可能性も高まる。AMH値が高すぎる場合は、不妊の原因となる「多嚢胞(のうほう)性卵巣症候群」の可能性もあるという。

 AMH値を高めることのできる治療法は、今のところない。卵子を若返らせる方法もなく、卵子の老化を止める手段はない。浅田院長は「出産を望む女性は、三十歳になったら未婚、既婚を問わずAMH値を測定し、人生設計を考える際の参考にしてほしい」と呼び掛ける。

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 検査は自費診療で数千〜一万円程度。二十五歳ぐらいから可能。六ミリリットル程度の血液を採取し、一〜二週間で結果が出る。月経周期の影響は少なく、いつでも検査できる。



引用元:
血液検査で分かる卵子残数 不妊治療法選ぶ指標に(中日新聞)