14日に起きた最大震度7の地震以降、激しい揺れにたびたび見舞われ、犠牲者が増え続けている熊本県。大きな余震が続くなか、熊本市の産婦人科「福田病院」では14日夜、新たな命が生まれた。市内ではライフラインが寸断され、物資の不足も続いているが、「莉音奈(りおな)」と名付けられた女の子は、「たくましく育って」と願う両親に見守られ、すくすく育っている。(橋本昌宗)

 莉音奈ちゃんは同市南区の会社員、阪本浩介さん(31)の第3子。阪本さん一家は、浩介さんと妻の奈七(なな)さん(31)、長女の琉奈(るな)ちゃん(4)、長男の久斗君(2)に莉音奈ちゃんを加えた5人家族だ。

 「『ドーン』と大きな音がして、爆発か何かがあったのかと思った」。14日午後9時26分、突然、病院のベッドごと激しく揺さぶられた浩介さんは、最初の大きな揺れをそう振り返った。

 出産予定日だった今月1日を過ぎても陣痛が来る気配がなく、14日から入院したばかりだった。午後3時過ぎに待望の陣痛が始まり、仕事を終えた浩介さんも駆けつけ、奈七さんのお腹をさすっていた。突然の激しい揺れに病院内は一時停電。混乱のなか、陣痛は強くなっていった。

 いよいよ出産が迫り、親族と廊下に出た浩介さん。「何が起こって、どれぐらい時間がたったのか、今もよく思いだせない」ほど緊張感が募った

午後11時35分、大きな余震に揺られながら、「生まれました」という看護師の声を聞いた。続いて元気な泣き声が響き渡り、奈七さんの腕の中には3112グラムの赤ちゃんが抱かれていた。

 「お疲れさま」と声をかけ、琉奈ちゃんと久斗君も無事だと伝えると、奈七さんは安心した様子をみせた。

 しかし、ほっとしたのもつかの間。ほぼ丸1日がたった16日午前1時25分、最大震度6強の本震が熊本市を襲った。

 奈七さんと莉音奈ちゃんは病院の一室で2人そろって休んでいたが、ベッド近くに照明が落下し、停電で真っ暗になった。床にガラスが散乱する中、莉音奈ちゃんをつれてなんとか廊下に脱出した。

 実はこの夜、莉音奈ちゃんは何度授乳したりあやしたりしても寝付かなかった。奈七さんが起きたままだったことが、避難には幸いした。奈七さんは「地震が来るって分かってぐずっていたのかな」と、腕の中の莉音奈ちゃんを見つめた。

 娘を見守る浩介さんは「この日に生まれた意味は何なのかな、と考えてしまう。もしかしたら地震を予知する科学者になるかもしれない」と話し、「そのためにはいっぱい勉強しないとね」と目を細める。

 家族全員が初めてそろった17日、病室では、すやすや眠る莉音奈ちゃんの周りで、パパに遊んでほしい久斗君と、「私にも抱っこさせて」とママにせがむ琉奈ちゃんの元気な声が響いた。


引用元:
揺れる中、元気な産声…阪本莉音奈ちゃん 「将来は地震予測の科学者に?」と父親(産経ニュース)