畑氏が示したデータによれば、不妊の要因は男性だけによる場合が24%、女性だけによる場合が41%、両方による場合が24%。つまり、男性側の不妊が関係する場合が48%、女性側の不妊が関係する場合が65%だ。
男性の不妊については、要因の1つは無精子症。射精された精液に精子がまったく含まれない疾患だ。大きく2つのタイプがあり、1つは精子の生産に問題がある場合、もう1つは精子の輸送に問題がある場合。畑氏らは前者を研究対象とした。
精子の採取可能性を評価
患者に十分な量の精子を生産する能力がない場合、人工授精を目的に手術で精子を取り出すことがある。睾丸の「精細管」と呼ぶ組織を摘出し、そこから精子を取り出す。
ところが、この手術には高額の費用がかかることに加え、精子回収率は50%弱にとどまるという。精子回収の成否を分けるのが、精細管の太さ。直径が250μmを超えるような太い精細管からは精子を回収できるが、直径が100μmを下回ると回収は難しい。患者によっては太い精細管が存在せず、そのことは執刀医が目視で確認するまで分からないという。
太い精細管の有無や分布を術前に把握できれば良いが、意外にもこれが難題。睾丸を対象とするためX線CT装置での撮影は難しく、一般的なMRIでは解像度が足りない。超音波による診断が有望だが、睾丸の内部までを計測できる低周波の超音波では解像度が足りず、解像度の高い高周波の超音波では睾丸の内部までを計測できないというジレンマがある。
高磁場MRIと同等の精度
そこで畑氏らは、さまざまな周波数を含む広帯域の超音波を使う画像診断法を開発した。精細管の太さに応じて、強い信号を得られる周波数が変化する性質を利用する。得られた超音波画像から、各画素の濃淡と周波数を特徴量として精細管の分布を画像化。ここに人工知能を使う。
評価実験には、牛の睾丸を使った。「“美味”かつ高価なものだそうで、去勢する種牛からしか採取できないこともあり、入手までに1年かかった」(畑氏)。
今回の手法で測った精細管の太さの平均値は約218μm。対して、11.7T(テスラ)という非常に強力な磁場を備えるMRIで計測した場合の平均値は約204μmだった。MRIに対して約14μmの誤差で測定できた形だ。ただし、実際の人間の患者を対象にするのは現時点ではまだ難しいという。
超音波画像から空胞を判定
一方、女性の不妊では排卵に要因があったり、卵管の閉塞や狭窄に要因があったりする。このうち排卵因子の一つが、卵胞が卵子を含まないケース(空胞)だ。
不妊治療で行われる体外授精では、専用の注射針を膣から卵巣に刺し、卵胞内の卵子を採取する。ところがこの際、空胞を採取してしまう可能性がある。膣からプローブを挿入して超音波画像を撮影しても、そこに映る卵胞が空胞かどうかの判定は目視では困難という。
そこで畑氏らは、超音波画像からの特徴量の抽出と人工知能による認識を利用し、超音波画像に映った卵胞が空胞かどうかを判定する手法を開発した。3人の患者から取り出した計16個の卵胞で検証したところ、卵子のある卵胞10個のうち9個を正しく判定でき、空胞6個のうち5個を正しく判定できた。画像情報だけから、卵子の存在の有無を高い精度で判定できたことになる。
このように、人工知能は画像診断の強力なツールになる。既に肺がんなどの画像診断や、それに基づく「予後予測に使われ始めた」(畑氏)。今後、治療への適用可能性を検証することなどが人工知能の医療応用における課題だとした。
引用元:
不妊治療にも人工知能の力(日経デジタルヘルス)