母乳で育てたいのに、母乳が出ない……。自分の期待に加えて、母乳神話や周囲の「なぜ出ないの? 」の言葉に傷つけられたママたちは、少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、新生児訪問や育児相談、マタニティサロンの運営などで活躍している助産師の浅井貴子さんに、「母乳の悩み」について答えてもらいました。
母乳とミルクの選択はTPOに合わせればいい
新生児訪問をしていると、母乳神話に苦しめられているママにたくさん出会います。聞こえてくるのは「母乳じゃないと免疫がつかない」などの周囲の声や、「ミルクだと太りやすいのでなるべく母乳をあげるように」といった医療従事者の声。自らの母乳育児に対する憧れもあいまって、母乳が出ないことがまるで駄目なことのように、深刻に捉えてしまいます。
ママたちは母乳が出ない自分を責め、赤ちゃんに対して罪悪感を持ちます。ひどくなると、産後うつになる方もいらっしゃいます。しかし、実際にはどのくらいのママが母乳をあげているのかというと、新生児を100人訪問すれば母乳が出る人は4割程度。なんらかの努力をして混合栄養(母乳とミルク)にしている方が3割といったところです。
最近では0歳児から保育園に預ける人も増えているので、預けている間はミルクを飲ませるという人もいます。ですから、母乳にするかミルクにするか二者択一に決めるよりも、TPOに応じて柔軟に授乳ライフを楽しめたらいいと私は思います。
母乳分泌は遺伝じゃない
とはいえ、周囲の発言に傷つく人も少なくありません。ここからは、世の中に広まっている母乳に関する情報について、本当に正しいのか具体的に見ていきましょう。まず、「赤ちゃんには母乳が一番! ミルクで育てるとキレやすい子になる」というもの。これについては、科学的根拠がありません。
さらに、実の母親から言われることの多い「母乳は気合で出すもの、私は出たからあなた(娘)も出るはず」という発言も根拠がありません。そもそも気合で母乳が出るものではないし、母乳分泌は遺伝ではないからです。「牛乳を飲まないから母乳が出ない」という人もいますが、牛乳の摂取量と母乳の量との有意差はありません。
また、よく言われる「おっぱいを吸わせてさえいれば絶対に出る」という言説についても全面的には肯定できません。それは、なぜでしょうか。次ページで解説します。
ミルクを足したほうが出る場合がある
「おっぱいを吸わせてさえいれば絶対に出る」というのは一理あります。しかし、絶対ではありません。不眠不休でおっぱいを吸わせようとして、逆に疲労や睡眠不足から母乳の出を悪くすることがあります。一時的にでもミルクを足して、ゆっくり休んだ方が出る場合もあるのです。
1つよく言われるアドバイスとして正しいと思うのは、「和食中心の食生活で水分を多めにとる」ということ。母乳の元となるのは「血液」で、母乳をあげているママは毎日400mlの献血をしているのと同じになります。血液の量が多く、さらさらの血液だと乳腺に入ってからの母乳もあっさり甘くて、赤ちゃんにはおいしいおっぱいになります。水分も1日2〜3リットルは摂取しましょう。
出ない人はがんばりすぎる必要なし!
口を開けば「母乳は出てる? 」と聞かれ続けることが、ヒアリングをしたママたちの苦痛な言葉No.1でした。相手にとってはちょっとした一言であっても、最もストレスがたまり、自分を責める言葉に聞こえたそうです。
私も助産師なので、母乳の利点などは十分すぎるほど分かっています。出ないお母さんに、母乳マッサージもします。ただ、私の一番のスタンスは「出る人はあげればいいし、出ない人は極端にがんばる必要はない」ということです。
なんらかの生物学的な理由(乳腺の数が少ない)などで、出産したお母さんの3割は母乳が出ないとも言われています。要は赤ちゃんが空腹にならなければ、母乳でも粉ミルクでもいいのです。何をあげたかではなく、「どういう気持ちであげたか」の方を重視して、毎回の授乳タイムがストレスなく、ママが笑顔でいられる時間になるよう心から切に願っています。
引用元:
「母乳崇拝」がママを追い詰める--ベテラン助産師が母乳都市伝説をジャッジ