前回の「データで見る日本の生殖補助医療」<http://www.asahi.com/articles/SDI201603161359.html>で、
・体外受精のときには複数の卵子を採取する
・子宮に戻す受精卵は、原則として1個
・残りは次の月経周期に向けて凍結保存するのが一般的
ということをお伝えしました。
さらに、最近では、
・採卵した月経周期では卵子を使わず、すべて凍結保存する
というケースも増えていることも合わせてお伝えしました。
読者のみなさんの中には「なぜ、採取した卵子をすぐに使わないのだろう」と疑問に思った方もおられるかと思います。そこで、今回はその背景となるデータについて解説したいと思います。
前回に続き、日本産科婦人科学会のホームページにある生殖補助医療のデータ「ARTデータブック」の「2013年PPTX版」<http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2013data_201601.pptx別ウインドウで開きます >を見ていきます。
今回取り上げるのは、こちらに出てくる最後の2枚のスライドです。ちょっと難しく思われるかもしれませんが、おつきあいください。
このグラフは、生殖補助医療である「体外受精」をする際に、卵子を含む「卵胞」を育てる方法が治療成績にどう影響しているかを検討したものです。体外受精では妊娠率を上げるため、薬を使って卵胞を刺激し、たくさんの卵子を採取(採卵)できるよう試みることが多いです。その方法を比べています。
ちなみに、こうした治療は「卵子が育つとき」「子宮の内膜が厚みを増して着床しやすくなるとき」など女性の月経の様々なタイミング(周期)にあわせて実施されます。
スライド12枚目(下)ですが、これは「卵胞発育刺激」開始時の治療数を100%としたときの、刺激する方法別、年齢別の妊娠率を検討した結果です。
写真・図版12枚目のスライド(ARTデータブック 2013年 PPTX版 から)
卵胞発育を刺激する方法は、これまでにいろいろ開発されてきました。左端の「Natural」とあるのは文字通り自然に、つまり人工的には何の刺激もせずに卵胞の発育を待ち、十分発育したところで手術により採卵する方法です。自然ですので、育ってくる卵胞はほとんどの場合1つです。
そのほかの方法はお薬を使った方法です。「Clomiphene citrate(CC)」(左から2つめ)や「aromatase inhibitor(AI)」(左から8つめ)とあるのは飲み薬で、この方法は比較的マイルドな卵胞発育刺激が必要な方に使います。それ以外の薬は注射薬で、強めの卵胞刺激となります。
図を見ると、卵胞刺激によって成績が違うことがわかります。一方で、年齢の比較では、どの治療法でも若い患者の方で成績がよいことが示されています。
また、自然周期やCC,AIなどの比較的マイルドな刺激方法ですと、発育する卵胞数も少なめになりますが、年齢が若いと刺激法別でそれほど大きな違いはありません。しかし、年齢が高くなると刺激の強い方法のほうが成績はよくなっています。
13枚目のスライド(下)は、受精卵を子宮に戻す「胚(はい)移植」をした治療数を100%としたときの成績です。
写真・図版13枚目のスライド(ARTデータブック 2013年 PPTX版 から)
採取した卵子は精子と合体させて受精卵にしてから胚移植します。この段階までたどりついたケースのうち、どれくらいが妊娠に至ったかを検討したものです。
ここでも、どの治療法でも若い患者の方で成績がよいことは変わりません。しかし、自然周期やマイルドな卵胞刺激をしたほうが、高年齢の方も含めて比較的成績がよいことに気づきます。
二つのデータをまとめて解釈すると、まず採卵に関しては、とくに高年齢の方にとっては、刺激が強めの方法のほうが妊娠に至りやすいということが言えます。
しかし、子宮に受精卵を戻すタイミングに関しては、自然周期やマイルドな刺激をした場合のほうが妊娠率は高くなりやすい、つまり、刺激をしないかマイルドな刺激にとどめた場合のほうが、子宮は受精卵が着床しやすい環境になっていることが推測されるのです。
卵胞刺激を強くするべきか弱くするべきか。「採卵」と「着床」それぞれのタイミングによって結果が異なっています。
このことから、たくさん卵子を採取するために卵胞を強めに刺激した場合は、その周期では受精卵を子宮に戻さずにいったんすべて凍結保存し、次の周期以降に子宮に戻すといった方法が試みられるようになってきているのです。
みなさんがもし、これらの治療が必要になったとき、こうしたデータを参考にして、医師からの提示された治療法を含めてよく考えてみていただければと思います。
引用元:
体外受精のための卵子、どう育てたら? 日産婦のデータから(apital)