乳がんの治療に化学療法がありますが、治療の影響で月経が止まることが多くあります。イタリアの研究者が閉経前乳がんの方を対象に、化学療法にLH-RHアナログという薬を併用し、長期的な卵巣機能の回復への影響を検証しました。


乳がんの治療は、おもに手術、放射線療法、ホルモン療法、化学療法があります。乳がんのタイプや進行状況、閉経の有無などによって適切な治療法を選択します。

この中で、化学療法による卵巣機能障害は女性の身体の健康への影響が懸念されます。ここで紹介する研究は、卵巣機能障害を抑える方法として、LH-RHアナログに効果があるか検討しています。



◆ステージI〜III閉経前の女性281人を対象に

研究班は乳がんのステージI〜IIIで、閉経前の女性281人を、術前・術後化学療法のみを受ける患者さんと、化学療法にLH-RHアナログ(トリプトレリン)を併用する患者さんに分け、治療による影響、月経がもどるか、妊娠できるかなどを比較検証しました。



◆長期的な卵巣機能回復の確率が高くなる

以下のような結果が得られました。

5年間の累積月経再開率の推定値は、LHRHa群148人の72.6% (95%信頼区間, 65.7%-80.3%)、対照群133人の64.0% (95%信頼区間, 56.2%-72.8%)であった(ハザード比1.28 [95%信頼区間, 0.98-1.68]; P = .07; 年齢調整ハザード比1.48 [95%信頼区間, 1.12-1.95]; P = .006)。妊娠はLHRHa群で8件(5年間の推定累積妊娠発生率、2.1% [95%信頼区間, 0.7%-6.3%])、対照群で3件(5年間の推定累積妊娠発生率、1.6% [95%信頼区間, 0.4%-6.2%])だった(ハザード比2.56 [95%信頼区間, 0.68-9.60]; P = .14; 年齢調整ハザード比2.40 [95%信頼区間, 0.62-9.22]; P = .20)

トリプトレリンと化学療法の併用は、化学療法単独と比べて妊娠率に差がなく、月経が再開する確率が高くなることが分かりました。

2つのグループを比較して、無病生存期間(DFS、がんの再発がなく生存している期間)は統計的に差が認められませんでした。


LH-RHアナログが化学療法による卵巣機能障害への一つの対処法となり得る可能性がでてきました。今回の研究だけでは、この方法が決定的とはいえません。また、LH-RHアナログと化学療法の間でどのように影響するのかという問題もあり、議論が分かれていて今後も課題となるのではないでしょうか。

引用元:
乳がんの抗がん剤による影響に、「LH-RHアナログ」の併用は助けになるのか(MEDLEYメドレー)