◆先送りしないで済む環境を◆
仕事で多忙だった独身のころ「将来に備えて」と凍結保存した自分の卵子を使い、結婚後に40代の女性が出産していたことが明らかになって以降、凍結卵子での出産に注目が集まっている。
この方法は健康へのリスクや妊娠率が高くないことを理由に、日本産科婦人科学会の専門委員会が「推奨しない」との見解をまとめている。ただ妊娠や出産をめぐる選択は個人的なものであり、リスクも理解した上で利用したいという女性の意思は尊重されるべきだろう。多様な考え方があるだけに、専門学会などから十分な情報が発信されることを望みたい。
リスクある卵子凍結
がん患者らが放射線治療による不妊症のリスクを考え、凍結卵子を使って妊娠、出産した例はこれまであった。厳しい治療を乗り越えねばならない患者に、希望をもたらした医療技術だといえる。
今回の女性の例は、健康な女性の出産としては国内初とみられている。仕事が多忙で結婚の予定もなかったが、将来の出産を希望して凍結保存していたという。
一般的に女性は30代後半ごろから妊娠、出産率が急速に下がる。原因の多くは「卵子の老化」であることが近年注目されており、将来の「保険」と説明して、卵子凍結を手掛けるクリニックもある。
一方、成功率が高くないことやリスクなどは知っておくべきだ。女性が通ったクリニックは、2010年から昨年末までに健康な女性約230人の卵子を保存し、17人が体外受精をしたが、出産したのはこの女性が初めてだった。
受精卵が得られたとしても、高齢での出産は母体と胎児の双方にリスクが高まる。卵子採取から体外受精まで、高額な費用も掛かることも現実としてある。
仕事との両立に困難
自治体や企業の中には、住民や社員の卵子凍結を支援する動きも出てきている。少子化対策として期待を寄せているのだろう。
そうであればなおさら、リスクを含めた客観的な情報が、この方法を選択肢として望む人たちの手に届くようにしたい。
今回のニュースで切実に考えさせられたのは、女性が「いつ産むか」で悩んでいるという現実だ。
晩婚化、晩産化は加速している。卵子凍結が可能と聞けば心が動く女性は多いだろう。同様の事例は増えるのではないか。
だがまず社会は、仕事との両立が難しいなどの理由から、妊娠出産を先送りしないで済む環境を目指したい。本県でも長時間労働や子どもの急な病気への対応など、子育てしながら働き続けることには困難が伴い、マタニティーハラスメントなどの嫌がらせもある。
苦労する上の世代を見て「仕事が一段落するまでは」と結婚や妊娠のタイミングを先延ばしする女性は少なくないのではないか。
「仕事か出産か」と二者択一を迫るような労働環境や社会を変えていくことが求められている。
引用元:
女性と出産(宮崎日日新聞)