薬の実験に応用できる人工脳が開発されました。これで、新薬の開発成功率は高くなり、不幸な実験動物達の数も減らせるかもしれませんね!

ペトリ皿で製作された、脳細胞の塊
神経系統の病気を調べたり、新薬を開発するための実験動物に代わりうる、人工の小さな脳を製作したと、ジョンズ・ホプキンス大学のトーマス・ハルタング教授らの研究チームが、アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science.AAAS)に発表しました。

作成された人工脳の大きさは、ヘアピンの先の丸い部分くらいですが、このサイズでも大人の脳にある主要な細胞はほぼ網羅できているそうですので、今後は脳・神経系統の実験動物は必要なくなるかもしれません。

遺伝子操作の幹細胞「iPSCS」を、脳細胞に…
チームは「人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells.iPSCS)」と呼ばれる、幹細胞と同じ働きをするように遺伝子操作された大人の皮膚細胞を、ペトリ上で合成して人工脳を製作したとしています。

すると、この幹細胞は丸みを増し、人間の脳の器官と同じ働きをする三次元の脳細胞になりました。
この人工脳は、実際の脳と同様の機能のいくつかを果たすことができ、妊娠2ヶ月目の胎児における脳と同レベルに発達しているそうです。

すなわち、4種類の神経細胞が発達し、それらをサポートする「支持細胞(support cells)」も伸びてきました。

マウス実験より、信頼性も高く、経済的?
実は、皿の中でこうした小さい人工脳が製作されたのは、これがはじめてではありません。
ただ、今回のものは標準化された製作方法で作られた「人工脳」としては、最も発達しており、薬の開発実験にも耐えうるものになっているそうです。

ハルタング教授は「未来の脳実験では、マウスなど実際の動物に依存する機会は減り、実際の人の細胞を使う機会が益々増えるでしょう」と予測しています。

ネズミなどげっ歯類の利用するのは手軽な方法ではありますが、人は60kgのラットだとでも言うのでしょうか?違いますよね。
もちろん、人の脳はただの細胞の塊でもありませんが、しかし、ラットを使った実験と比べるとより有益な情報を手に入れられるはずです。
「動物実験で、95%以上の確率で効果あり」と認められた薬でも、実際人に適用すると効果がないということはよくあるため、時間と資金がドブに捨てられているといいます。

今回の人工脳の特徴
今回の人工脳には、中枢神経系を構成するニューロン以外の主要細胞で、ヒトの脳内では神経細胞の50倍もの数を占める「グリア細胞(glial cell)」に分類される「アストロサイト(astrocytes)」や、「オリゴデンドロサイト(oligodendrocytes)」の形成も併せて確認されました。

アストロサイトは、進化の歴史の中で哺乳動物から出現し、マウスからヒトへの進化過程で数が急増してきた「脳内最大の細胞集団」と言われます。

オリゴデンドロサイトは、神経細胞の維持と栄養補給の機能を担っています。

また、この人工脳は、電気生理学的な活動を自発的に行っていることが脳波記録でわかりました。ラットの脳では不確かな検証でも、人工脳を使えば可能性が広がるのです。

すでに応用実験開始ずみ。特許も?
ハルタングらのチームは現在、この人工脳を特許申請しており、幾つかのラボで人工脳の製作を許可している商業団体である「Organome」に働きかけているところです。
この人工脳はすでに、パーキンソン病、アルツハイマー病、様々なタイプの硬化症、ウイルス性の感染症、外傷、脳卒中の研究への応用が始まっています。

【参照】

Test tube ‘mini brains’ could replace vivisection for drug development-independent.co.uk
Researchers of Parkinson’s, Other Neurological Diseases Say ‘Mini-Brains’ May Be Effective in Testing New Drugs-parkinsonsnewstoday.com
柔軟な脳のはたらきを支えるアストロサイト-東京薬科大学-www.brh.co.jp
グリア細胞の発生・分化-nips.ac.jp

引用元:
人工脳の開発で、近々実験動物は必要なくなるかも?(imedi)