虐待で「テロメア(telomere)」が短くなる研究結果が発表されました。歳の割には老けている…もしかしたら、テロメアが短いのかも知れません。テロメアその❶
テロメアのことを話し始める前に「セントラルドグマ」について説明します。
ヒトの細胞の「核」には、女性で大・小23対、男性で大・小22対と合計46本の染色体があります。
染色体は、「ヒストン」とよばれるタンパク質に、DNAが巻き付いたものです。
DNAの最小単位であるヌクレオチドは、「塩基」「糖(デオキシリボース)」「リン酸」の3つの化合物が、一つずつ結合したものに、リン酸が結合することで鎖状になっています。
「塩基」…アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つからなる。アデニンとチミン、グアニンとシトシンが、互いに結合しあう性質があるので、2本鎖状のものが並んでいる。これがDNAの2重らせん構造を形成している。
塩基の並び方、個々人による違いが、ある特定のタンパク質形成指令が書かれた領域、すなわち遺伝子情報(ゲノム)です。
ご承知のように、DNAの塩基配列は親から子へと受け継がれますので、遺伝子情報も受け継がれます。 遺伝子情報は、両親2人分で1対であり、基本的には優性の遺伝子が発現することとなります(メンデルの法則)。
DNAが発現するには、RNA(リボ核酸)の一つ、メッセンジャーRNAに塩基配列がコピーされる必要があります。これを転写と言います。
DNAが、メッセンジャーRNA(mRNA)を作り、それがリボソームという翻訳媒体によって読み取られ、遺伝子情報で指定されたタンパク質が作られていきます。これを「セントラルドグマ」と呼びます。
細胞分裂(DNA複製)で短くなる染色体部分「テロメア」
細胞が分裂を繰り返すごとに、すべての細胞内のDNAは、上記のセントラルドグマを繰り返し(同じ塩基配列を複製し)、次世代に遺伝子情報を伝えていきます。
複製の際には、「RNAプライマー」と呼ばれるDNAの塩基配列と、相補的なRNAの鎖が作られ、このプライマーに従って複製が行われます。
ですが、実は、DNAの末端部分のプライマーは合成できないため、細胞分裂の際に複製できないのです。
この事態に対処するため、DNA複製システムはこの末端部分に対し、予め「テロメア(telomere)」という反復塩基配列(TTAGGG)を用意しています。
この配列は、1500〜2500回繰り返され、50回程度の細胞分裂(DNA複製)に対応可能ですが、逆に言うと、その回数を超えると細胞分裂してよい回数が制限されてきます。
テロメアは、DNA複製されるたびに短くなっていくのが特徴です。
なぜ短くなるかというと、細胞が分裂し、DNAが複製されても、末端であるテロメアは複製されないため、少しずつ短くなっていくからです。
いわば、テロメアはDNA損傷度合いを示す時限装置のようなものです。
暴力orストレスを受ける → テロメアが短くなる
1994年から1995年にかけて生まれた英国人236人について、誕生時から追跡調査を行い、染色体の末端部分であるテロメアの配列を観察した、米デューク大学と英キングズ・カレッジ・ロンドンの共同研究(” Exposure to violence during childhood is associated with telomere erosion from 5 to 10 years of age: a longitudinal study”)があります(2012年)。これは『Molecular Psychiatry』に掲載されました。
【研究概要】
・いじめられたり、たたかれたり、母親とそのパートナーの間で起きた暴力を目撃するという経験を持つ、5歳から10歳までの児童のテロメアの長さを、ビフォア・アフター(虐待経験前→経験後)で測った。
テロメアの長さを計測した結果、平均してアフターのテロメアが短縮していたことをうけ、ストレスにより、テロメアが浸食されるスピードが速まることが分かったのです。 デューク大のポスドクIdan Shalevは言います。
こういう子は普通の子より“年寄り”です」もし細胞の老化スピードが覆されなければ、この子たちは早すぎる死を迎える可能性が高い。
この研究結果以前にも、子どもの頃虐待されていた大人は、テロメアが短いという研果が複数存在しました。
ですが、既に大人ということならば、虐待を原因とした健康上の理由など、以外の要因が、テロメアの短さに関係した可能性も否定できませんので、虐待そのものが原因だとは言い切れなかった状況にあったのです。
そこで研究者らは、1995年から1年間のうち英国で生まれた、236人(5〜10歳)の子供の頬の細胞から擦って採取したDNAサンプルを使った調査をしました。結果、子供は以下の3グループに分けられました。
❶ 全く暴力を受けたことのない54.2%
❷ 1種類の暴力を受けた29.2%
❸ 2種類以上の暴力を受けた16.5%
本研究成果で、❸の子供は、ほかにくらべてテロメアが短いことがわかりました。
この結果は健康状態、社会階層、性別、体重などを考慮してもなお言えることでした。
チームは、こうした暴力は、必ずしも子どもに影響を与えるものでなくても、ストレスの積み重ねがテロメアの短さに関係していると考えています。
ストレスが、テロメアの短さとなって現れるメカニズムはまだ明確ではありませんが、ストレスに免疫系等が対処する結果起こる「炎症」がその原因ではないか。
Shalev
この結果について、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のElissa Epelは、子供の頃に受けたトラウマが、子どもに長く与えるダメージを裏付けるものでもあると言います。 彼女は、ストレスと細胞の老化について研究しています。
これは子どもの頃受けた厳しいストレスは子どもの免疫系等に多大な影響を及ぼし、その後数十年続く可能性を示しています。
いじめや、家族内での暴力を減らしていくことがいかに重要かということを強調する結果です。
でも!環境によって食い止められる!
Shalevは、「テロメアが短くなっていくのはくい止めることが可能だ」としています。
健康的食事、運動、瞑想などは、テロメアの長さに関連があるのです。 ちなみに、Shalevらはこの子らが18歳になるまで追跡調査を行うとしています。
引用元:
歳の割には老けて見える?:虐待で「テロメア」が短くなる…ストレスも×!テロメア❶(imedi)