からだの代謝を調整する甲状腺の機能が低下する病気、橋本病(慢性甲状腺炎)。甲状腺の機能が低下した状態で妊娠すると、赤ちゃんに影響する可能性があります。橋本病と妊娠の関係について解説します。


◆妊娠中に橋本病の診断が・・・妊娠すると甲状腺の機能はどうなるの?

橋本病は、甲状腺(首の根元にあり、からだの代謝を調整する機能を持っている臓器)の腫れ、甲状腺機能の低下を伴う自己免疫疾患です。好発年齢は20歳から50歳と幅広く、女性に多い病気です。特に病気が進行すると、甲状腺の機能が低下し、甲状腺機能低下症の原因となります。妊娠中に甲状腺機能の低下が認められた場合、流産の可能性が高くなることが報告されており、適切な治療が必要となります。今回は、妊娠中に橋本病を発症した、または橋本病の人が妊娠した場合について解説します。

まず橋本病の話に入る前に、通常では妊娠すると甲状腺ホルモン(甲状腺から分泌されるホルモン)や甲状腺刺激ホルモン(甲状腺の分泌を調整するホルモン)にどのような変化が見られるかについて説明します。まず妊娠初期には、血液中の甲状腺ホルモンは多くなり、甲状腺刺激ホルモンは少なくなります。妊娠7週目から14週目頃には、多くの妊婦で妊娠していない時の甲状腺刺激ホルモンの正常値の下限を下回ります。妊娠中期から後期では、甲状腺刺激ホルモンは妊娠していない時の正常な値まで戻り、甲状腺ホルモンについても同様に正常値に落ち着きます。

一方、橋本病では前述したように、甲状腺の機能が低下しているため、甲状腺ホルモンが少なく、甲状腺刺激ホルモンは多くなるという妊娠中のホルモンの状態と逆の経過を辿ります。甲状腺ホルモンは、お腹の中にいる赤ちゃんの発達に関わるホルモンであると言われているため、生まれてくる赤ちゃんに何かしらの影響がある可能性が出てきます。



◆橋本病と妊娠、どんなことに注意する必要があるの?

昔は、甲状腺機能の異常があったとしても、甲状腺ホルモンは胎盤を通過しないため赤ちゃんにはさほど影響しないという説がありました。しかし、現在では甲状腺ホルモンは胎盤を通過することや、妊娠初期の甲状腺ホルモンが赤ちゃんの発達に欠かせないものであることがわかり、治療が必要であることが認知されています。

橋本病と妊娠が重なった場合、どのようなことに注意する必要があるのでしょうか。

まず、橋本病で「甲状腺機能の低下が見られない場合」では、あまり気にする必要はありません。ただし、前述のように、妊娠中は甲状腺ホルモンに変動があるため、もしかしたら甲状腺機能の低下がそこで現れる可能性もありますので注意が必要です。一方、橋本病で「甲状腺機能低下症が見られた場合」では、赤ちゃんの運動発達、知的発達に悪影響になるという研究報告があります。適切な治療を行って、甲状腺ホルモンの値を正常値に近づけることが必要です。

また、出産後には、免疫システムのリバウンド現象のようなことが起こり、血液中の甲状腺ホルモンがかなり低くなることがあります。何れにしても、医師の管理のもとで治療を受ける必要がありますが、心構えとして頭の隅に留めておいても良いかもしれません。



◆橋本病と妊娠、どのような治療法があるの?

治療法は主にホルモン療法になります。甲状腺ホルモンは、人間にとって害になるわけではないので、妊娠中でも治療を行うことができます。ここでは海外で示されている妊娠した場合の橋本病の管理について紹介しますが、アメリカでは3つの診療ガイドラインがあり、妊娠している場合の橋本病の管理について甲状腺刺激ホルモンの目標値があります。大きく分けると、妊娠前、妊娠成立後、妊娠中、産後、産後のフォローのそれぞれで目標値が決められており、甲状腺刺激ホルモンの値が適切な範囲内におさまるように甲状腺ホルモンの値を調整するという治療になります。例えば、赤ちゃんの成長発達に甲状腺ホルモンが重要となる妊娠初期に関して、「妊娠検査が陽性になった際には、ホルモン量を25-30%増量し、すぐに治療医に知らせる」(米国甲状腺学会ガイドライン2011)というように、具体的な推奨が示されています。妊娠に関連して甲状腺機能の低下が認められた場合でも、同様にホルモン治療が行われます。



橋本病と妊娠について、解説してきました。甲状腺機能低下症(甲状腺の機能低下)を伴うと、赤ちゃんにも影響する可能性があります。医師と良く相談し、適切な対応を取れるように準備しましょう。

引用元:
甲状腺機能低下症を伴う橋本病は妊娠、出産後は何に気をつければ良いの?(MEDLEY(メドレー)‎)