人の噂も七十五日というが、話題となった出来事はSNSで炎上し、あっという間に人々の記憶から消えていく。今年になってまだ2カ月ほどなのに、すでにいくつものトピックが現れては去っていった。先だって話題になったいわゆる「育休議員」についてもいずれそうなるだろう。忘れてしまう前に、ここに記しておきたい。

 女性国会議員は出産のために議院に出席できないときは、日数を定めて議長に欠席届を提出する。産休とも育休とも書かれてはいないが、衆参に同様の規定がある。しかし男性については書かれていない。あの一件ではさまざまな意見が飛び交った。まずは国会議員が育休を取ることへの賛否。その後、件(くだん)の議員は辞職し、議論そのものがなくなった。育休議員の辞職原因は自業自得としかいえないが、議員へのマイナスイメージが男性国会議員の育休への道を遠のかせたようにも思う。

 一連の報道を見て気になったのは、育休のとらえ方だった。育児休業制度は、男女労働者ともに与えられた権利だ(勤務先によって育休を取れる条件は異なる)。育休とはあくまで育児休業であって、育児休暇ではない。
 なぜなら育休は本業を休まなければならないほどハードワークだからだろう。

 生まれたばかりの赤ん坊の育児は24時間労働、ミルクを飲ませ、げっぷさせてから寝かしつけ、やっと休めると思ったらもう赤ん坊は起きだして泣いている。何もかも子供次第、予定は立たず外出も難しい。家事すらままならない。わたし自身、妹の赤ん坊が生まれた頃に度々面倒を見たが、毎回気力体力ともにヘトヘトになった。

 出産は女性にしかできないが、育児は男性も可能だ。件の育休議員には、男女ともに活躍できる社会を目指すなら、育休は休暇ではなく子育てのための一時休業という認識を広め、そのうえで育休を取りやすい環境作りやシステム作りをしてほしかった。そしてこれは育児だけではなく介護にも通じる問題だ。育児は子供のいる人のみのことだが、介護はいつする側、される側になるかわからない。

                   


【プロフィル】中江有里

 なかえ・ゆり 女優・脚本家・作家。昭和48年、大阪府出身。平成元年、芸能界デビュー、多くのテレビドラマ、映画に出演。14年、「納豆ウドン」で「BKラジオドラマ脚本懸賞」最高賞を受賞し、脚本家デビュー。フジテレビ「とくダネ!」にコメンテーターとして出演中。


引用元:
育休は休暇ではなく子育てのための一時休業  (産経新聞)