手洗いは感染症対策の基本です。もちろん、風邪の予防にもなります。

ところが、手洗いが風邪の予防になるとご説明すると、意外に思われる患者さんもたまにいらっしゃいます。それは、ノロウイルスのような食事を介して感染するような病原体ならともかく、「風邪のウイルスは咳(せき)やくしゃみによって空気中に飛び散った飛沫(ひまつ)を介して感染するのであって、手は関係ない」という誤解にあるようです。

実際には、飛沫からも感染しますが、それだけではなく手を介しても感染します。

手を介して風邪ウイルスの感染が起こりうることを証明した実験があります(Gwaltney

JM Jr and Hendley JO, Am J Epidemiol. 1982 Nov;116(5):828−33. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6293304別ウインドウで開きます )。

健康な若い成人の被験者に、風邪を起こすウイルスの一種であるライノウイルスで汚染させたコーヒーカップやプラスチックタイルに触ってもらい、その後で自分の鼻の粘膜にも触ってもらいました。すると、コーヒーカップを触った10人中5人が、プラスチックタイルを触った16人中9人がウイルスに感染したのです。

風邪のウイルスが環境表面から手を介して感染するとなると、風邪の患者さんと同席していなくても安心できません。

風邪をひいた人がくしゃみをするときに口を手で覆ったり、マスクを捨てるとき手で触ったりすると、その手がウイルスで汚染されます。その手でドアノブを触ると、今度はドアノブがウイルスで汚染されます。そのドアノブを触って、その手で目や鼻を触ると、粘膜からウイルスが感染します。

バスや地下鉄で近くの人が咳をしているのは気にするのに、自分の指の衛生には無頓着ということはありませんか。ほとんどの方が、トイレの後や食事の前は手を洗うでしょう。でも、つり革を触って洗っていない手で無意識に目をこすったりしている方は、けっこういらっしゃるのではないでしょうか。

手洗いは手を介したウイルス感染を防ぎます。具体的な研究は、村上義孝先生が紹介されています(手洗いでインフルエンザをどれくらい防げる?  http://www.asahi.com/articles/SDI201602048512.html )。

研究の方法によっても差がありますが、手を洗うことで呼吸器感染症を2割から5割減らすことができます。手洗いのいいところは、リスクやコストがほとんどないことです。また、風邪だけではなく、胃腸炎を起こす感染症も予防します。

もちろん、手洗いだけでは感染症を予防できません。手洗いだけでなく、ワクチンや、マスク・うがいといった他の方法も併用して感染症を予防しましょう。

 

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引用元:
風邪は手からも感染します (朝日新聞)