赤ちゃんが小さく生まれると、その子は成長してから肥満や高血圧、糖尿病や心血管系の病気になりやすい。そんな話を聞いたことはありませんか?
これは1980年から1990年ごろにかけて英国のBarker先生らが、疫学調査を行って発見したことに始まります。彼らは1968年から1978年に心筋梗塞(こうそく)などの心臓の病気による死亡率の高かった地域では、出生した当時の赤ちゃんの死亡率も高かったことを発見し、その後も研究を続けました。
そして、経済環境が悪くて母親の栄養状態がよくないために低出生体重児(出生体重が2500g未満の児をいいます)として生まれた子は、成人になってから虚血性心疾患(心筋梗塞などの心臓の病気)で死亡する確率が高くなることを発見しました。これらの事実から、胎児は母胎での環境が悪いと低出生体重児として生まれるだけでなく、成長してから肥満や心血管系の病気にかかるリスクが増加するとの仮説を提唱しました。
現在では、その考えはさらに発展したものとなっています。お母さんのおなかにいる時や生まれてすぐの成長発達の時期では、児はおかれた環境に対応して体の機能を変化させ、その変化はずっと続くとされます。そして、この変化と成長した段階の環境とがうまく適合しなければ、成人してからのさまざまな病気につながりやすい、と考えられています。
たとえば、母胎にいるときに母親の栄養状態が悪いと、胎児はこれに対応しようとして、少しの栄養だけで生きられるように体の代謝を変化させます。それが、成長していくときに通常の栄養を与えられると、その子にとっては「栄養過多」となり、肥満などにつながりやすくなるとされています。
胎児や赤ちゃんのころに起こるこうした変化は、周囲の環境に応じて、体の設計図であるDNA(遺伝子)の読まれ方が変わるために起こるのだと考えられるようになってきました。つまり、DNAの配列がどうなっているかだけでその人の体の特徴が決まるわけではないのです。
植物の「金魚草」をご存じでしょうか? この花は、寒いときと暖かいときとで、咲く花の色が変わります。周囲が寒いか、暖かいかによって、花の色にかかわるDNAの読まれ方が変わるのです。そして、成長発達の時の環境によって起きた読まれ方の変化は、その後も継続します。
こうした「環境による影響」は、不妊治療においても無関係ではないかもしれません。たとえば、体外受精の際は体外で数日間、胚(受精卵)を培養します。また、胚は必要に応じて凍結したり融解したりします。こうした環境の変化が、胚のDNAの読まれ方に変化を与えているようなことはないでしょうか。
不妊治療にはまだわからないことがたくさんあります。体外受精などの安全性をしっかりと確認していくという意味も含めて、卵子や精子を取り巻くいろいろな環境がDNAの読まれ方にどのような変化を及ぼしているのか、研究で解明していきたいと考えています。
<アピタル:男女で知って欲しい「妊活」・その他>
引用元:
胎児や乳児のころにおかれた環境と成人期の健康 (朝日新聞)