「夢のような気分でした。これまでずっと上手くいかなかっただけに人生最高の瞬間でした」

 2015年3月、第三者からの卵子提供によって念願の子供を手にした米イリノイ州在住のリサ。彼女は第三者からの卵子提供を世の中に理解してほしいと、自らの不妊治療から妊娠・出産、その後の経緯を語るビデオシリーズを作成、動画投稿サイトYouTubeに載せた。動画シリーズは現時点で総合で55万回も視聴されている
第三者からの卵子提供による妊娠、出産は日本でも実施されている。だが、その数は未だ微々たるもので、世界にはこれを法律で禁止する国も珍しくない。そのため、卵子提供を望む人はタイや米国など合法化されている国々に集まる。米国の場合、州によって規制の内容は異なるものの、生殖補助技術学会(SART)によれば2013年に米国で第三者の卵子提供によって生まれた子供の数は9512人に上る。

 卵子提供を望む人はどこでどのように手続きを進めるのか、卵子を提供する女性たちはどんな人たちなのか。25年の歴史を持つ卵子提供仲介業者の話を軸に見ていこう。(ニューヨーク支局、長野光=敬称略)

卵子提供者、選ばれる第1の条件は「見た目」
 肉体的、あるいは年齢的な理由から子供を持てない夫婦が第三者から卵子の提供を受け、その卵子と夫の精子を体外受精させ、受精卵を妻に移植して妊娠を試みる、これが現在スタンダードな卵子提供の形だ。その際に、卵子を提供する女性をエッグドナー、そしてクライアントからの相談を受けてエッグドナーを見つける仲介業者のことをエージェンシーと呼ぶ。

 卵子提供を経て生まれる子供はエッグドナーの遺伝子を受け継いでおり、子供の肉体的、あるいは精神的な特徴はエッグドナーに起因する。

 それでは、どういうドナーが好まれるのか。

 米カリフォルニア州ロサンゼルスで25年の歴史を持つエージェンシー、エッグドナー・プログラム社長のシャーリー・スミスに尋ねると、身もふたもない答えが返ってきた。

 「お客様は特に外見の美しさにこだわります。当社では美しく賢く、善良で健康なドナーを数多くそろえています」

顧客にドナーを紹介する際の基本的な前提として、同社は顧客と外見の似たドナーを紹介する。肌の色、髪の色、瞳の色、その他の肉体的特徴が母親とエッグドナーでかけ離れていれば、生まれてくる子供が母親の子供とは思えない外見になってしまうからだ。

IQテストの結果も卵子選択の一要素
 この条件をクリアした上で、顧客はドナーに自分の理想を投影する。知能の高い子供がほしい、スポーツの得意な子供になってほしい、クリエイティブな才能を秘めてほしい…。そんな顧客のニーズに応えるために、エッグドナー・プログラムでは、ドナーの学生時代の成績やIQテストの結果なども顧客に提供している。

 意図的に子供の特徴をつくり上げるところから、卵子提供は「デザイナーベビー」と呼ばれ、時に批判される。だが、特徴を戦略的に付加できるのであればそうしたいと思うのが人情。ドナーの美貌を写真で見て確認し、様々なスコアを見比べながら、顧客は夢を膨らませる。

 「以前、ハーバード大学メディカルスクールの教授がドナーを探してほしいと相談に来たことがありました。優秀な方がどんなドナーを希望されるのかと思ったら、真っ先に外見の優れたドナーを探し始めたことを覚えております」

エッグドナー・プログラムにはおよそ300名のドナーが所属している。指名が集中するのはほんの一握りだが、所属する女性はそろいもそろって美人ばかりだ。

 それもそのはずだ。毎月およそ100名ほどの女性がドナーに応募するが、審査を経てこのエージェンシーに登録が許されるドナーはそのうちわずか5%しかいない。審査は厳しく、遺伝学者に依頼してドナー希望者の遺伝的な情報を3代遡って審査する。健康が大前提のため、持病や病歴などから候補から外れていく人は少なくない。

 もちろん、ドナーの人格も審査する。遠いところに住んでいる場合はスカイプで面談する。「お金がほしい」と連呼するような人は採用しない。そういった審査を終えた上で、選考の基準として大いに重視されるのは外見の美しさだ。若くて健康でも顧客から選ばれなければ所属させる意味がない。

売れっ子ドナーの指名料は2万5000ドル
 それでは売れっ子ドナーほど卵子は高いのか。答えはもちろんイエスだ。一流大学や医学部を出ている高学歴のドナーは卵子も高額で、下は8000ドルから上は2万5000ドルまで幅広い。

 ドナーに払うお金が卵子提供の費用の全てではなく、ドナーの紹介料や医療費など様々な料金が加算されるため、1回の卵子提供の処置にはおよそ4万ドル(484万円)から6万ドル(726万円)を要する。どこのエージェンシーを使うか、どこのクリニックを使うか、どのドナーに頼むか、どんな薬を使うかなど、様々な理由で料金は大きく変動するのだ。

 学歴や見た目で卵子の値段が変わることに戸惑いを覚えるが、今のところ卵子売買に関わる規制は存在しない。米国生殖医療学会(ASRM)は、卵子提供によってドナーが1万ドル以上を受け取ることは適切ではないとガイドラインに記している。だが、ガイドラインであって法律ではない。また、卵子提供は寄付(ドネーション)であって売買ではないというのが建前である。報酬は謝礼であって代価ではないため、規制の入る余地もない。

 なお、契約が決まるとドナーは健康診断を受診、ホルモンを投与して卵子が生成されやすい体に作り変える。連日医師の下で超音波テストを受け卵子の生育状況をチェック、最後に卵巣に針を刺して卵子を摘出する。摘出自体は20分ほどの作業だという。

ブリトニーの採卵は年3回
 「採卵後はしばらく体が妊娠しているような錯覚を覚えるの」

 既に卵子を5回以上提供したベテランドナーのブリトニー(28歳)はこう語る。カリフォルニア州でモデルをしている彼女はエッグドナー・プログラムで最も指名の多いドナーの1人。人気の高いドナーは年に3回の卵子提供を引き受けるというが、彼女はまさにそんな1人だ。来月新たに卵子提供を控えており、これを最後にエッグドナーの世界から身を引くと決めた。

ASRMの資料には、1人のドナーの卵子提供は6回までと書かれている。それだけ体の負担が大きいということだろう。

 「今後20年ぐらいで、体がどうなっていくか観察していくつもり」とブリトニーは言う。現時点では健康に問題は見当たらないが、長期的には何かしらの影響があるかもしれない。そんな説明を受けたと彼女は語る。

 卵子提供はこの数年の技術革新を経て、新たなステージへ突入した。

 業界のブームは凍結卵子だ。これまでは顧客とドナーの肉体的なサイクルを見て採卵と移植がなされたが、冷凍であればそういった問題は発生しない。通常の卵子提供と比較して失敗率は10%上がる程度だが、金額は半分からそれ以下にまで下がる。エッグドナー・プログラムは既に150人分のドナーの冷凍卵子を保有しており、毎日のように顧客から問い合わせを受けている。

 「私たちは不妊に悩む人々がどれだけ子供を望んでいるかを知っています。そんな望みを見ず知らずの他人が叶えてくれる。だからこそ、人々はドナーのことを“エンジェル”と呼ぶんですよ」

 顧客は世界中からスミスの下に訪れる。35%から40%は海外からの依頼だという。



引用元:
卵子提供者、人気があるのはどんな女性?(日経ビジネスオンライン)