子どもを望んで体外受精などの高度な生殖医療を受けても出産できない不妊症患者は少なくない。だが、治療をいつやめるかの決断は難しい。患者支援に取り組んできたNPO法人Fine (ファイン、東京)の松本亜樹子理事長が「不妊治療のやめどき」(WAVE出版)と題する本を出した。治療を終えた16人のその後の生き方などを紹介し、「妊娠出産だけでない自分のゴールを治療前から意識して」と呼び掛ける内容だ。


▽最も悩ましい

 松本さん自身、30代前半から不妊治療を足掛け10年続けたが、子どもを授からなかった。2004年にファインを立ち上げ、当初は不妊症への理解を広める啓発、次いで治療費の助成の充実を国に働き掛けるなどの活動に力を入れてきた。近年大きなテーマになってきたのが治療のやめ時。「当事者が直面する問題の中で、最も悩ましいのがこれです」(松本さん)という。

 「治療の終わりを考えるのが怖い」「今やめると後悔するのでは」。治療をやめられない理由は人によりさまざまだが、共通するのは、妊娠だけが目標となり、自分はなぜ子どもが欲しいのか、自分にとって家族とは―といった考えを深めていない点だという。

 「私自身もそうだった。やめるかやめないか自体より、夫婦の幸せや家族の在り方について、他者の経験を知って考え直してみようと言いたかった」と松本さん。本では、治療で子どもを得られなかった16人の女性たちの、その後の歩みを紹介することにした。

▽豊かな人生

 その一人、大阪府豊中市の堀田敬子さん(51)は、順調に昇進していた仕事を30代半ばで諦め不妊治療に専念したが、子どもは授からなかった

 「成功率は低いと知識としては知っていたけれど現実感は全くなし。妊娠しないのは私の責任だと自分を責めてばかりいた」と振り返る。経験者として不妊症の女性たちを支えたいとカウンセラーになり、活動の幅を徐々に広げている。

本にはほかに、養子を迎えた人、里親になった人や、落語ができる行政書士になったというユニークな人も登場する。「治療を終えた後にも豊かな人生があり、つらかった不妊治療も決して無駄になっていない。そのことを知ってほしい」と松本さんは話す。

▽当たり前ではない

 ここ数年、松本さんには「治療の終わりをテーマに講演を」といった依頼が増えてきたという。

 背景には不妊治療を受ける人の高齢化がある。日本産科婦人科学会 がまとめた13年の体外受精など生殖補助医療のデータによると、最も多くの治療を受けた患者の年齢は40歳。30代にピークがあった数年前より年齢は上がっている。患者が高齢になるほど治療成績は下がり、反対に流産率は上がる。1回の治療で出産できる確率は40歳で8・3%、45歳だと0・8%。治療を重ねてもかなり厳しいため、やめ時の問題は避けて通れなくなりつつある。
 不妊治療専門の東京HARTクリニックでカウンセリングを担当する臨床心理士の平山史朗さんは「体外受精などをしても子どもを得られない人は決して珍しくないのに、多くの人は『子どもはできて当たり前』という意識で治療を始めるので、予想外の結果に苦しんでしまう」と指摘した上でこう話す。
 「なぜ治療をするのか、子どもを持つことは自分たち夫婦にどんな意味があるのかを考えてから不妊治療を始めることが必要ではないか。結果がどうあれ、その意味づけは必ず生きてくる」と話している。

(共同通信 吉本明美)

引用元:
不妊治療、やめ時も意識を16人の「その後」紹介支援団体代表が本(医療新世紀medcalnews)