寒い季節に流行し、乳幼児がかかると肺炎を引き起こす原因にもなるRSウイルス感染症が、今季も猛威を振るっている。感染力が強く、持病があったり早産だったりした子供は重症化しやすいが、親の認知度は必ずしも高いとは言えない。早めの受診とともに、予防に気を配ることも必要だ
脳症や死に至る可能性/産後女性、高齢者も注意/異変あれば早めの受診
 国立感染症研究所によると、全国約3000の小児科のある医療機関から報告されたRSウイルス感染症の患者数は、昨年12月7〜13日で7469人と、週単位では今季最多だった。年齢別では、1歳以下の子供が全体の7割近くを占める。同研究所は「例年、年末をピークに春まで流行が続く」としている。

 「インフルエンザは流行期には警戒され、予防接種や治療薬もあります。しかし、RSウイルス感染症は風邪と誤解され、受診が遅れがち。甘く見ず、実はインフルエンザよりも怖い病気であることを知ってほしい」と話すのは、同感染症に詳しい多摩北部医療センター(東京都東村山市)小児科部長の小保内俊雅さんだ。

 RSウイルスは、感染した人のせきやくしゃみで生じた飛沫(ひまつ)や鼻水などに接触することでうつる。ウイルスがおもちゃやテーブルなどに付いた後、4〜7時間は感染力を保つとされている。生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%が一度は感染する。はしかのように免疫を獲得することはなく、何度も繰り返してしまう。

 潜伏期間は2〜8日。せきや鼻水、発熱などが数日間続き、症状が進むと「ぜーぜー」という呼吸が続き、せき込んで吐いてしまう。さらにひどくなると肺炎や気管支炎などを引き起こし、命にかかわることもある。「ワクチンやウイルスを抑える薬は今のところなく、治療は解熱や気管支を広げる薬を投与するといった対症療法だけです」と小保内さん。

 乳幼児だけがかかりやすいと思われがちだが、成人も注意が必要だ。特に免疫力が低下している出産直後の女性や高齢者もリスクが高い。出産直後の女性は、感染に気づかないまま病院の新生児室などを訪れることで、感染を拡大させる恐れもある。

 医薬品会社「アッヴィ」が昨夏、2歳以下の乳幼児を保育施設に預ける両親1030人を対象にインターネットで実施したアンケート調査によると、「RSウイルス感染症がどのような病気か詳しくは知らない」と答えた親は66・8%を占めた。また「生後6カ月の乳児が感染すると重症化し、入院治療が必要となることを知っていた」という親は21・5%、「重症化すると脳症や死に至る可能性があることを知っていた」という親も17・3%にとどまった。

 調査を監修した小保内さんは「この病気への理解が進んでいないことは予想していました。生後6カ月以内の乳児、早産で生まれた子供、慢性肺疾患や先天性心疾患といった基礎疾患などを持つ子供は重くなりやすいこと、重症化すると将来的にぜんそくなどの原因となることも、もっと周知すべきでしょう」と解説する。

 RSウイルス感染症は、症状が徐々に進む。だからこそ重症化する前に子供の症状の変化を見逃さないことが重要だ。風邪に似た症状だが、呼吸が荒くなっている▽苦しそうなせきをする▽ミルクを飲む量が減る▽せき込んで食べ物を吐いてしまう−−などの症状が見られる場合は、すぐに受診すべきだという。

 さらに小保内さんは「アンケート調査では56・9%の親が、子供に病気の疑いがあっても保育施設を利用した経験があると回答しています。鼻水など初期症状があるにもかかわらず、保育施設に通わせるのは子供の容体を悪化させるだけでなく、施設での感染の拡大につながる。乳幼児の保護者はもちろん、保育施設の職員も、RSウイルス感染症への理解が求められます」と注意を促す。

 「RSウイルスはどんな子供も感染してしまいます。それでも、できるだけそのリスクの低減を図ることが必要です」。昭和大江東豊洲病院小児内科教授の水野克己さんはそう強調する。

 RSウイルス感染症の予防は手洗いの励行が基本だが、水野さんが勧めるのは、感染が拡大する時期に乳幼児をむやみに人混みに連れ出したりしないことだ。気をつけたいのは、ファミリーレストラン、ファストフード店など外食の店舗。テーブルにウイルスが付着していることがあるからだ。やむを得ず出かける場合は、アルコール消毒を心掛けたい。

 乳幼児の場合、他の子供との接触にも警戒を要する。保育施設などに年長の子を迎えに行く際、ベビーカーに赤ちゃんを乗せていくと、目線の近い子供たちに触られてウイルスをうつされる恐れがある。「家族間もうつりやすいので、流行期に少しでもおかしいと感じたらマスクをする意識で」と水野さん。また、親の喫煙は子供の気道に悪影響を与え、感染リスクを高めるので避けたい行為という。

 「乳幼児にも適度に日光浴をさせ、体内にビタミンDを作って免疫力を高めてください。母乳を与えることも有効。母乳で育った子供は重症化しても入院期間が短いことがわかっています」と水野さんはアドバイスする。

 早産や心臓・呼吸器疾患があるなど重症化の高いリスクを抱える乳幼児には、予防法の一つとしてウイルスの増殖を抑えるパリビズマブ(商品名シナジス)を筋肉注射で投与する方法がある。高額だが、高リスクの条件に当てはまれば保険が適用される。水野さんは「パリビズマブの投与は重症化を防ぐ有効な手段。重症化してぜんそくを引き起こせば、その後、何年も悩まされることになる。長い目で見ればメリットは大きいはずです」と効果を説明する。

 RSウイルス感染症の対策は、できることやすべきことを確実に行うことから心掛けたい。



引用元:
どうすれば安全安心 RSウイルス感染症 風邪と誤解、乳児は重症化も(毎日新聞‎ )