米国で初の子宮移植が近く実施される見通しであることが、米紙ニューヨーク・タイムズ電子版で11月12日(紙面は13日)に報じられました。移植大国・米国での実施は各国に少なからず影響を及ぼすものと見られます。代理出産が認められていない日本では、子宮がなくて子どもを諦めていた女性に大きな希望を与える可能性がある一方、実現には課題もあります。子宮移植の歩みと現状をまとめてみました。
私が米国で医師として働くようになってから感じた日本と米国の医療の違いの一つに臓器移植医療があります。医学が進歩した現在、腎臓、心臓、肺、肝臓、膵臓すいぞう、腸など、様々な臓器が移植の対象となります。日本では1997年に臓器移植法が成立し、脳死した方からの臓器移植が可能となりました。日本臓器移植ネットワーク、全米臓器分配ネットワーク(UNOS=United Network for Organ Sharing)のデータによると、日本での2014年の死体臓器移植の件数は253件ですが、米国では年間2万3000件も行われており、大きな差があります。このように臓器移植が盛んな米国ですが、最近、ある臓器移植への関心が高まり、メディアでも大きく取り上げられています。それは、「子宮移植」です。
現在、子宮が生まれつきない女性や、病気で子宮を摘出してしまった女性、もしくは妊娠や出産ができない子宮を持つ女性にとって、遺伝的につながりのある子ども持つには、代理母出産しか方法がありません。代理母出産は、米国の一部の州では法的に認められていますが、日本では認められていないため、子どもを持つことを諦めざるを得ない女性は少なくありません。今後、子宮移植の研究がさらにすすめば、そうした女性にとって「子宮移植を受けて、自分の子供を産む」ということが、選択肢になる可能性があります。子宮移植に関しては、医学的な課題だけでなく、倫理的、法的、社会的な議論を深めていかなければなりません。そのために、子宮移植について、そして日本の現状について紹介したいと思います。
2014年についに成功した子宮移植からの出産
子宮移植の歴史はまだまだ浅く、世界でもほとんど行われていないのが現状です。世界で最初の子宮移植は、サウジアラビアの医師によって00年4月に行われた46歳の女性から、26歳の女性への生体子宮移植だとされています[1]。この26歳の女性は、出産後の子宮からの出血が止まらず子宮摘出を余儀なくされ、その後また出産をしたいという希望から、子宮移植を受けました。しかし、移植から99日後に、子宮への血管に血の塊が生じてしまい、移植した子宮が取り出されることになりました。イスラム教では、代理出産が認められていないため、子宮が生まれつきない方や子宮を失ってしまった女性にとって子宮移植は有用だ、とこの手術を行った医師たちは言います[2]。
世界で2例目の子宮移植は、11年8月にトルコで行われました。子宮のドナーは、交通事故で脳死になってしまった22歳の女性で、移植を受けたのは、生まれつき子宮のない21歳のデルヤ・セルトさんでした。この女性は子宮移植から1年半後の13年に、事前に体外受精していた受精胚の移植を2回受けましたが、2回とも妊娠初期に流産となり、出産にはいたりませんでした[3]。
この後、子宮移植による出産に挑戦したのはスウェーデンの産婦人科医マッツ・ブランストローム医師たちです。00年以降、10年以上にわたりマウス、ブタ、霊長類などで子宮移植の実験が繰り返され、12年9月から、9人の女性に子宮移植が行われました。そして、14年10月、「The Lancetランセット」という英国の著名な医学誌に、世界で初めて子宮移植を受けた女性から赤ちゃんが生まれたことが報告され、世界中のメディアで大きく取り上げられました[4]。子宮移植を受けたのは、生まれた時から子宮のないロキタンスキー症候群の35歳女性で、子宮を提供したのは、この女性と親しい仲の61歳の女性でした。子宮を取り出す手術には約10時間、そして移植には約5時間かかりました。手術が終わった後も、何もかもがうまくいったわけではありませんでした。臓器移植後には、他人からの臓器を自分の免疫が拒絶しないように免疫抑制剤と呼ばれる薬が使われますが、軽度の拒絶反応が起こり、薬の調整が必要となりました。移植してから1年後に、凍結されていた受精胚を移植し、妊娠にいたりました。31週5日目に妊娠高血圧症候群で入院となり、入院してから16時間後に帝王切開が行われ、1775グラムの男の子が生まれました。早産でしたが、赤ちゃんには特に健康上の大きな問題はなく、出産から16日目に無事退院となりました。この後、さらに、子宮移植をうけた他の女性3人が出産しています。
世界で初めての子宮移植による出産に成功したスウェーデンのマッツ・ブランストローム医師は、どうして子宮移植に挑戦するようになったのでしょうか。彼の手記によると、1998年10月のある金曜日の朝、ある患者との会話がきっかけになったとのことです[5]。当時、オーストラリアで研修をしていたブランストローム医師は、子宮頸癌けいがんで子宮摘出術を受けることになっていたアンジェラという20代半ばの女性に、手術前の説明をしていました。子宮を摘出することにより、卵巣は残るが、もう一生妊娠を望めないことを話すと、アンジェラはすぐにこう言ったのです。
「解決法を知っているわ。お母さんの子宮を私に移植すればいいのよ」
それまで、彼が考えたこともなかったアイデアを患者から聞かされ、彼は驚きました。その夕方、いつもどおり同僚らとパブへビールを飲みにいきました。しかし、話したのはスポーツや週末の予定のことではなく、子宮移植についてでした。この日、彼が仲間と議論し辿たどり着いた結論は、アンジェラの突拍子もないように思われた子宮移植による出産は、十分に実現可能だということでした。それから、16年後、ブランストローム医師は、あの時アンジェラに言われたことを、世界で初めて実現してみせたのです。
子宮移植に乗り出す英国、フランス、そして米国
スウェーデンの子宮移植による出産の成功例をうけて、英国と米国は積極的な子宮移植に動き出しています。今年2015年9月末には、英国で子宮移植が倫理審査で承認され、10人に子宮移植が行われることが報道されました。うまくいけば18年には、子宮移植からの妊娠により、子どもが生まれるとのことです。11月5日には、子宮移植がフランスで承認され、16年の終わりには、子宮移植が施行されることになりそうです。
そして、15年11月13日(電子版12日)、米紙ニューヨーク・タイムズの一面に、米国のオハイオ州にあるクリーブランド・クリニックで、数か月以内に米国で初めての子宮移植が予定されていることが報道されました。クリーブランド・クリニックという病院は、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、米国の医療者なら知らない人はいないとも言われるほど全国有数の病院です。
この臨床試験の対象となるのは、子宮性不妊のある21歳から39歳の女性です。米国では、スウェーデンの生体子宮移植と異なり、生きた方からではなく、亡くなった方からの子宮移植が予定されています。子宮移植を後は免疫抑制剤を開始し、移植1年後に移植前に凍結していた受精胚を子宮に移植します。出産は、帝王切開で、子どもが一人か二人生まれた時点で、免疫抑制剤を飲み続けなくてもよいように子宮を摘出します。
死体(心停止もしくは脳死後)からの子宮を摘出する理由として子宮提供者の手術のリスクを考慮しなくてすむことがあげられます。移植するための子宮を摘出するのは、通常の子宮摘出術と異なり、尿管と子宮の血管を丁寧に離していくなど、複雑な手術であるため、7時間から11時間はかかる、とこのプロジェクトの中心メンバーであるアンドレアス・ジャキス医師はいいます。
臓器移植後は通常、免疫抑制剤を飲まなければなりません。免疫抑制剤が妊婦そして胎児に与える影響が気になりますが、今まで何千人もの臓器移植後(特に腎臓移植)の女性が妊娠・出産に成功してきたという研究結果があります [6]。臓器移植後に免疫抑制剤を服用している女性は、ほかの女性と比べて、妊娠高血圧症になりやすく、胎児も小さくなりがちだが、子宮移植を受ける女性は、他の臓器移植を受けている女性と違い、重い病気にかかっているわけではないので、合併症の割合は低いのではないかと、ジャキス医師はニューヨーク・タイムズ紙に語っています。
15年9月から既に8人の女性が、子宮移植を受けたいという希望をもって、移植に適しているかを確認する「ふるい分け」の検査(スクリーニング)に参加しています。その中の一人の26歳の女性は、16歳の時に、生理がこないので検査を受けたところ、自分には子宮がないことを知り、打ちのめされたといいます。
「私は(妊娠と出産という)経験がしたくてたまらないのです。つわりも、腰痛も、足のむくみも経験したい。赤ちゃんが動くのを感じてみたい。それが、物心ついてからずっと望んでいたことなのです」
もし今回の米国での試みが成功すれば、世界で初めての死体子宮移植からの出産となります。子宮移植への関心が一層高まり、移植が多く行われている米国において、子宮移植は子宮性不妊に悩む女性にとって、現実的な選択肢になるかもしれません。
子宮移植に乗り出す英国、フランス、そして米国
スウェーデンの子宮移植による出産の成功例をうけて、英国と米国は積極的な子宮移植に動き出しています。今年2015年9月末には、英国で子宮移植が倫理審査で承認され、10人に子宮移植が行われることが報道されました。うまくいけば18年には、子宮移植からの妊娠により、子どもが生まれるとのことです。11月5日には、子宮移植がフランスで承認され、16年の終わりには、子宮移植が施行されることになりそうです。
そして、15年11月13日(電子版12日)、米紙ニューヨーク・タイムズの一面に、米国のオハイオ州にあるクリーブランド・クリニックで、数か月以内に米国で初めての子宮移植が予定されていることが報道されました。クリーブランド・クリニックという病院は、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、米国の医療者なら知らない人はいないとも言われるほど全国有数の病院です。
この臨床試験の対象となるのは、子宮性不妊のある21歳から39歳の女性です。米国では、スウェーデンの生体子宮移植と異なり、生きた方からではなく、亡くなった方からの子宮移植が予定されています。子宮移植を後は免疫抑制剤を開始し、移植1年後に移植前に凍結していた受精胚を子宮に移植します。出産は、帝王切開で、子どもが一人か二人生まれた時点で、免疫抑制剤を飲み続けなくてもよいように子宮を摘出します。
死体(心停止もしくは脳死後)からの子宮を摘出する理由として子宮提供者の手術のリスクを考慮しなくてすむことがあげられます。移植するための子宮を摘出するのは、通常の子宮摘出術と異なり、尿管と子宮の血管を丁寧に離していくなど、複雑な手術であるため、7時間から11時間はかかる、とこのプロジェクトの中心メンバーであるアンドレアス・ジャキス医師はいいます。
臓器移植後は通常、免疫抑制剤を飲まなければなりません。免疫抑制剤が妊婦そして胎児に与える影響が気になりますが、今まで何千人もの臓器移植後(特に腎臓移植)の女性が妊娠・出産に成功してきたという研究結果があります [6]。臓器移植後に免疫抑制剤を服用している女性は、ほかの女性と比べて、妊娠高血圧症になりやすく、胎児も小さくなりがちだが、子宮移植を受ける女性は、他の臓器移植を受けている女性と違い、重い病気にかかっているわけではないので、合併症の割合は低いのではないかと、ジャキス医師はニューヨーク・タイムズ紙に語っています。
15年9月から既に8人の女性が、子宮移植を受けたいという希望をもって、移植に適しているかを確認する「ふるい分け」の検査(スクリーニング)に参加しています。その中の一人の26歳の女性は、16歳の時に、生理がこないので検査を受けたところ、自分には子宮がないことを知り、打ちのめされたといいます。
「私は(妊娠と出産という)経験がしたくてたまらないのです。つわりも、腰痛も、足のむくみも経験したい。赤ちゃんが動くのを感じてみたい。それが、物心ついてからずっと望んでいたことなのです」
もし今回の米国での試みが成功すれば、世界で初めての死体子宮移植からの出産となります。子宮移植への関心が一層高まり、移植が多く行われている米国において、子宮移植は子宮性不妊に悩む女性にとって、現実的な選択肢になるかもしれません。
日本での子宮移植
日本においても、子宮移植に関する研究が進んでいます。12年に、慶応大学産婦人科の研究グループが世界で初めて霊長類(カニクイザル)の子宮移植後の妊娠・出産を成功させました。14年には、日本子宮移植研究会が発足し、日本での子宮移植に向けて動き出しています。
今回、日本の子宮移植研究の第一人者とされる、同大産婦人科助教の木須伊織医師に、日本での子宮移植について聞きました。
ーー子宮移植が対象となるのは、生まれつき子宮がない女性や、妊娠ができない子宮を持つ女性など、子宮性不妊症(子宮が原因の不妊症)を持つ女性とされています。日本で、子宮移植が可能となった時に、どれくらいの女性が、子宮移植を希望されることが予想されますか。
木須 子宮移植を希望される人数の予想は難しいですね。ただ、日本での20〜30代で子宮悪性腫瘍で子宮を失ってしまった方や生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群などの子宮性不妊患者は、日本で約6万人前後と推定しています。もちろん、全員が結婚を希望され、子どもを希望しているわけではないので、そのうち、どのくらいが希望されるのは未知だと思います。
ただ、14年12月にインターネットで3700人の25〜39歳の女性に子宮移植のアンケートをしました。もし自分に子宮が生まれつきない、もしくは子宮を失った場合に子宮移植を自身が希望するかという質問で、「希望する」が19.6%、「どちらともいえない」が52.7%、「希望しない」が27.7%でした。子宮移植が十分に知られてないためか、「どちらともいえない」が半数以上でした。「自分は希望しない」という意見が多かったのですが、あなたは子宮移植に賛成かという別の質問では、「大いに賛成である」3.8%、「賛成である」38.6%、「どちらともいえない」が47.8%、「反対である」が7.5%、「大いに反対である」が1.2%という結果でした。つまり、若年女性の意識は賛成派が多い印象でした。また、他の代替手段である代理懐胎とも比較していますが、代理懐胎よりも賛成派が多い結果となりました。
ーー木須先生は、意識調査の結果をどのように受け止められましたか。また、反対する理由としてはどのような意見があったが教えて下さい。
木須 予想以上に賛成派が多い結果で驚きました(もちろん子宮移植のアンケート調査なので、肯定派に傾くバイアスがありますが)。やはり、自分のお腹なかで妊娠して、自分で出産したいという意見がこの結果につながっていると思います。海外で子宮移植がさらに行われれば、日本社会でも十分受け入れられる医療になることが期待されます。
反対する理由で多かったのが、「自分や他人の身体に危険をおかしてまで妊娠・出産はしたくない」(35.7%)、「手術そのものが心配である」(22.9%)、「免疫抑制剤の子どもへの影響が心配である」(21.5%)といった意見がありました。
やはり、自分や他人、子どもにリスクを冒してまで子どもを産むことはどうかとの意見が多かったです。
ーースウェーデンでは成功例が続き、フランス、英国そして米国も子宮移植に本格的に取り組み始めています。日本において、人の子宮移植が実現するまでにあとどれくらい時間がかかるでしょうか。また、日本での子宮移植にむけてどのような課題がありますか。
木須 早くても3〜5年だと思います。技術的には今でも可能だと思います。ただ、倫理的議論を社会で行う必要があります。また、実施施設予定病院内での実施グル―プの結成や審議、倫理申請、治療実施の詳細な手順書(プロトコール)の作成だけでなく、日本産科婦人科学会、日本移植学会、厚労省にも実施を働きかけながら、学会レベルでの実施に対する審議(委員会結成など)や学会間の調整が必要となるため、時間を要することが予想されます。
ーー臓器移植法には、「この法律において『臓器』とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓その他厚生労働省令で定める内臓及び眼球をいう」とあります。また「臓器の移植に関する法律施行規則」では、「厚生労働省令で定める内臓は、膵臓及び小腸とする」とあります。現在の法律では、脳死した方からの子宮を移植することはできないのですね。
木須 そうです。臓器移植法では移植対象の臓器が定められており、残念ながら現在子宮はその対象ではありません。そのため、脳死した方からの子宮を使用する場合は、臓器移植法もしくは省令を改正しないと実施ができませんので、生体間移植よりもはるかに時間がかかることが予想されます。
ーー倫理的な議論についてですが、日本社会では、移植医療、特に脳死した方からの臓器移植に関して抵抗を持つ方が多いように思います。子宮移植に特有の、倫理的な問題にはどのようなものがあるでしょうか。
木須 やはりこれまでの臓器移植と違って、子宮移植は生命に直接関わる臓器移植ではないところだと思います。また、出産という目的が達成されれば、子宮を摘出することができる、いわば一時的な移植でもあり、これまでの臓器移植の文化と大きく異なります。一方で子宮移植は不妊治療の位置付けでもあり、親の子どもを得たいという希望だけで、第三者に負担を強いることをしてよいのかという疑問は常につきまといます。これは子宮移植だけでなく、代理懐胎、精子提供、卵子提供も同じような問題を抱えていますし、今は一般的に行われている体外受精、胚移植という生殖補助医療技術に対しても、多くの夫婦に福音をもたらしておりますが、これらの技術が全国民に受け入れられる医療ではないというのも事実です。
ーースウェーデンの生体子宮移植では、そのほとんどが母親からの子宮提供でした。一方、米国と英国では死体からの子宮移植が考えられています。子宮を提供するための、臓器適合性など、条件はありますか。
木須 白血球の型(HLA)はマッチするに越したことはありませんが、現在の免疫抑制剤の進歩により、生命維持臓器ではあくまでも参考程度にしているに過ぎないのが現状です。ですので、HLAのミスマッチ数はあまり条件にならないかもしれません。
子宮の提供の基準は、
・子宮が機能すること(閉経後の方が予想されますが、ホルモン剤投与により月経が回復することを確認します)
・子宮に器質的疾患がないこと
・子宮にHPV(ヒトパピローマウィルス)感染がないこと
・出産歴(があることを条件に入れるかもしれません。移植して生理がきても、妊娠できる子宮でないと困ります)
などがよく言われていることです。他にも細かな基準が設けられると思います。
ーーこれから始まる米国での臨床試験では、21歳から39歳までを子宮移植の対象年齢としています。日本では、女性の平均初婚年齢は29.3歳、第1子出産時の平均年齢は30.4歳と、年々高齢化してきています。子宮移植は大体何歳くらいまでが対象となりますか。
木須 現在のところ、考えられている目安はレシピエント(移植医療を受ける患者)は38歳までが上限だと考えています。40歳以上の妊娠出産は非常にハイリスクのため、38歳で移植を受け、1年間は少なくとも妊娠しない経過を見て、順調に1年後に妊娠して、妊娠期間を約1年と考えると40歳以下での出産になる計算です。あくまでも目安です。
ーー子宮移植について、米国や英国では手術的な難しさ、子宮提供者の手術のリスクを考えて、死体からの子宮移植を進めていくようです。日本では死体臓器移植の件数が少なく、生体移植の方が多い状況があります。子宮移植も、生体間の移植が主流になるでしょうか。脳死ドナー(臓器提供者)に比べ、生体からの子宮移植の利点はありますか。
木須 やはり日本での他の臓器移植同様に生体からのスタートで、症例も生体が多くなると思います。脳死ドナーが少ないというのが一番の理由かもしれません。生体の利点は、しっかりとした準備をして計画的に行えるというところだと思います。特に慣れていない初めのころはやはり計画的に行いたいと思っています。脳死ですと、複数の診療科が関与する医療となるため、いきなり脳死が出た際に、なかなかすぐに対応できる態勢を初めから整えるのは厳しいかもしれません。
また、脳死の場合は、臓器への血流を止める許容時間が問題となりますが、子宮ははっきりとした時間はわかっておりません(ニューヨーク・タイムズ紙には6〜8時間の冷却処置をするか保存液に入れての臓器の血流停止はOKと書いていましたが)。これは今後検証されていく事項です。そういう意味でも日本は、初めから脳死ドナーからの子宮移植を施行するのは難しいかもしれません。
◇
子宮移植に向けた多面的な議論を
2014年10月、スウェーデンで、世界で初めて子宮移植を受けた女性が子どもを産んだことにより、子宮性不妊で妊娠・出産を諦めていた人にとって、「自分で妊娠し、子どもを産む」という新しい可能性が開かれました。しかし、子宮移植は世界でも報告例が少なく、まだまだ研究が必要です。
スウェーデンで行われた9人の女性から、すでに4人の赤ちゃんが生まれ、今のところ大きな合併症は報告されていません。しかし、移植を受けた9人のうち2人の女性は、妊娠前に移植子宮の摘出を余儀なくされました。一人は、子宮への動脈に血栓が生じてしまい、もう一人は、子宮に感染が起きてしまいました。スウェーデンに続き、米国、英国、そしてフランスでは、数年以内に、子宮移植を受けた女性が出産をすることになりそうですが、このように世界的に子宮移植の経験と知識が蓄積されていくことで、より安全な手術方法、そして、移植後の胎児・母体、産まれてきた赤ちゃんの健康管理方法が確立されていくことが期待されます。
技術的な側面だけでなく、子宮移植は、生殖医療をめぐる倫理的問題にさらに臓器移植の倫理的問題が重なるため、複雑な問題といえます。しかし、配偶者以外の第三者の精子や卵子が必要ではないこと、親子の遺伝的関係が保たれるため、子どもの親を知る権利の問題が生じないことは、子宮移植による出産の利点といえます。また、代理母出産のように、他人に妊娠と出産のリスクを負わせることがないため、代理母出産よりも倫理的には良いという意見もあります。もちろん、生体間移植の場合、子宮を提供するドナーや胎児のリスクをいかに減らすかが重要な課題になります。また、ドナーのリスクを考えなくてもよい死体からの臓器提供を進めるにしても、脳死を含めた臓器移植の倫理的問題を考えていかなければなりません。
医学的にはすでに可能になりつつある子宮移植を、日本の社会で、どのように運用していくのか、子宮性不妊に悩む当事者の方の声もききながら、議論を重ねていくことが必要だと思います。
参考文献
[1] Fageeh W, Raffa H, Jabbad H, Marzouki A. Transplantation of the human uterus. Int J Gynaecol Obstet. 2002;76(3):245-251.
[2] Medical First - A Transplant Of a Uterus - The New York Times (March 7, 2002)
[3] Ozkan O, Akar ME, Ozkan O, et al. Preliminary results of the first human uterus transplantation from a multiorgan donor. Fertil Steril. 2013;99(2):470-476.
[4] Brannstrom M, Johannesson L, Bokstrom H, et al. Livebirth after uterus transplantation. Lancet. 2015;385(9968):607-616.
[5] Brannstrom M. The Swedish uterus transplantation project: the story behind the Swedish uterus transplantation project. Acta Obstet Gynecol Scand. 2015;94(7):675-679.
[6] Durst JK, Rampersad RM. Pregnancy in Women With Solid-Organ Transplants: A Review. Obstet Gynecol Surv. 2015;70(6):40
引用元:
米国で進む「子宮移植」と日本の現状(読売新聞)