早産で体が小さかったり、病気を持って生まれたりしたため新生児集中治療室(NICU)に入院する赤ちゃんが、検査や治療で受ける痛みを減らそうという取り組みが動きだした。新生児期に受けた痛みが、その後の発達に影響する可能性も指摘されるようになったためだ。


 埼玉県川越市の埼玉医大総合医療センターには、ベッド数約50の国内最大級のNICUがある。保育器が並ぶ広いフロアは薄暗く、たくさんの電子モニターが動いている割には音も静かだ。
「赤ちゃんへの余分な刺激を避ける工夫です」。総合周産期母子医療センターの内田美恵子副センター長が説明する。

 ●大人より感覚敏感

 NICUに入院する赤ちゃんの多くは、予定日より早く未熟な状態で生まれた早産児。心臓や肺などに病気がある子もいる。検査や治療のため、足の裏に針を刺しての採血や、喉の奥までチューブを差し込むたんの吸引など、苦痛を伴う処置を日に何度も受けている。

 早産児は感覚をつかさどる神経の機能も未発達だ。このため「かつては痛みを感じないとか、大人に比べ鈍感だと考えられていた時期もありました」(内田さん)。しかし研究の進展で、むしろ早産児の方が痛みを強く感じることが分かってきたという。また新生児期に痛みに多くさらされると、神経の発達に影響が出る可能性も否定できないとされている。
●処置前後、手で包み

 内田さんらは、2012年から痛み緩和のケアを進めてきた。その一つが、痛みがある処置の前後に、横たわった赤ちゃんの頭と体を看護師が両手で包み込み、落ち着くのを待つ「ホールディング」と呼ばれる方法。

 赤ちゃんは生まれる前に母親のおなかの中で、全身を温かくしっかりと包まれる感覚を体験している。それに近い状態をつくることで赤ちゃんは安定するという。

 こうしたケアは、処置をする医師とケアを担当する看護師らがチームで進める必要があるが、取り組んでいる施設はまだ少ない。

 小澤未緒・広島大講師(助産・母性看護開発学)らが12年、全国の周産期母子医療センターを調査したところ、痛み緩和に医療チーム全体が協力して取り組んでいると答えた新生児部門長は17・4%にとどまった。

 このため、日本周産期・新生児医学会など4学会が協力し、2年近くかけて痛み緩和のための指針を作成。今年初めに公表した。指針は、痛みを伴う処置を可能な限り減らすことや処置の前後に十分な安静時間を取ること、ホールディングなど幾つかの方法を推奨した。
海外で広く実施されている、処置前に糖分を与える方法については、足裏からの採血の際には有用としたが、痛みが和らぐメカニズムが解明されていないことや、糖分を繰り返し与えた場合の影響が不明なことなどを理由に、必要最小限にとどめるよう求めた。

 ●親の参加も促す

 指針はまた、ホールディングなどのケアに親が参加できるようにすることも促している。親の自信につながるなど良い影響があることが海外の研究で示されている。

 新生児の痛みケアの必要性を早くから訴え、指針作成委員会の委員長も務めた横尾京子・広島大名誉教授(新生児看護)は「できるところから実践に移してほしい。ケアに親が参加できるようにすることは、退院後の親子関係を考えても大切。指針の内容を家族にも分かりやすく伝える冊子などを作成する予定だ」と話している。


引用元:
新生児医療、痛み緩和進む 神経発達に影響も 指摘受け学会指針(毎日新聞)