◇無人機普及、飛行経験積めず
 災害や事故の現場に駆けつけ、負傷者を治療するドクターヘリは、その需要が高まる一方で操縦士の不足が懸念されている。無線操縦ヘリの普及で若手操縦士が経験を積む機会が減り、操縦士の要件として業界団体が定める飛行経験を積みにくくなっている一方、退職を控えるベテランが多くなったためだ。若手養成を重視する国土交通省は、操縦士の要件見直しに向けて調査に乗り出す。【内橋寿明】

 ドクターヘリが常駐する日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)。10月下旬、消防からのホットラインが鳴った。「茨城県取手市で女性が建物から転落」。救命救急センターの医師らが乗り込んだヘリは2分後に離陸し、その10分後には約20キロ離れた現場に着陸した。

 医師が機内で女性を治療しながら病院に戻って来たのは、出動要請の電話から約30分後。女性は重傷を負ったものの、その後順調に回復している。救命救急センターの八木貴典医師(45)は「病院に搬送されて来るのを待たずに現場で治療を始められるのが最大の利点」と強調した。

 NPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク」(東京都)によると、ドクターヘリは1995年の阪神大震災で陸上交通網が寸断され、救急医療が機能不全に陥った教訓から整備の検討が進み、2001年度に静岡県などで本格運航が始まった。03年の厚生労働省研究班の全国調査では、従来の救急に比べて救命率が3割以上向上し、完治して社会復帰できた患者も1・5倍に上った。

 国交省によると、ドクターヘリは4月現在、39道府県に46機ある。02年度に全国で2302件だった出動件数は、14年度には2万2643回と飛躍的に増えた。来年度更に5機増える計画で、今後も需要の高まりが見込まれている。

 事故現場や近くに着陸する必要から操縦には高度な技術が求められるため、運航会社などでつくる全日本航空事業連合会(全航連)は03年に「ヘリの飛行時間が2000時間以上、操縦する機種の運航経験が50時間以上」などの要件を操縦士に課した。

 一方、全航連によると近年は無線操縦ヘリの普及で農薬散布などヘリ業務が減少し、若手が経験を積む機会が少なくなっている。操縦士の年間の飛行時間は平均130時間程度で、全航連の要件をクリアするには15年以上かかる計算だ。

 今年2月現在、ドクターヘリの操縦士は兼務を含めて148人。50歳以上のベテランが3分の2を占める一方、35歳未満はゼロ。国交省は今年、ベテランの一斉退職で操縦士不足になる事態を懸念し、ドクターヘリの予算権限がある厚労省などと連絡会議を設置した。操縦士の要件は全航連の取り決めしかないため、来年度、操縦に必要な技量の調査を始め、要件に関する指針を初めて策定する方針だ。

 国交省の担当者は「ドクターヘリ需要の高まりに応えるには若手育成が急務だ。ヘリの業務が減るなかで、若手が効果的に経験を積める方法を検討する」と話している。

 【ことば】ドクターヘリ

 拠点病院に常駐し、急病や事故、災害発生時に医師や看護師が搭乗して現場へ向かう。機内には人工呼吸器や輸液ポンプなどの医療機器が備わり、現場で開始した治療を機内で継続できる。病院が運航を民間航空会社に委託し、年間の運航・運営費は1機につき2億円程度。原則として国と自治体が2分の1ずつ負担している。

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引用元:
ドクターヘリ:求む若者 操縦士確保へ要件見直し(毎日新聞‎ )