凍結保存された卵子が入ったタンク。新たな受け付けは中止している=東京都渋谷区の「はらメディカルクリニック」、上田学撮影


凍結保存された卵子が入ったタンク。新たな受け付けは中止している=東京都渋谷区の「はらメディカルクリニック」、上田学撮影
凍結保存された卵子が入ったタンク。新たな受け付けは中止している=東京都渋谷区の「はらメディカルクリニック」、上田学撮影

将来の出産に備えて卵子を凍結保存する試みを千葉県浦安市が始めた。費用は税金で助成するという。はたして市が願う少子化対策につながるのか?

 「学校の性教育は避妊ばかりが教えられている。妊娠は危険というより、奇跡です」。平日の夜7時、市健康センターの会議室。順天堂大医学部付属浦安病院の菊地盤(いわほ)先任准教授(47)の熱弁に、仕事帰りのスーツ姿の女性たちが聴き入った。卵子の凍結保存の希望者向け無料セミナーだ。

 参加した会社員女性(34)は「仕事に熱中して結婚できず、相手がいないが、凍結してみたい」。別の会社員女性(33)は「高額な費用が問題だったけど、将来の選択肢としてやってみたい」と話した。

 この病院と連携して市民の卵子凍結に取り組むことを市が発表したのは今年2月。東京に隣接し、若い世代が流入する浦安市だが、少子化傾向は顕著だ。2014年の合計特殊出生率は全国平均1・42を下回る1・09。10人中1〜2人は不妊治療を検討し、成功率が高い若い世代が体外受精を選択しても高額な費用を用意できない。それならば、市が財政的に若年層を支えて将来の出産につなげるという狙いだ。松崎秀樹市長(65)は「若い世代が安心して自然妊娠で出産できる社会になるまでの緊急避難的措置」と言い、「将来的に保険が適用されるよう国を動かし、女性を救済したい」と意気込む。

 市は今年度から3年間、補助金計9千万円を出す。結果、保険が適用されない計56万円の費用のうち、利用者の自己負担は外来での投薬や注射など10万円で済む。凍結した卵子は45歳までに妊娠することを前提とし、維持費は補助金でまかなわれる。

 すでにセミナーには7月からの3回で19人が参加。平均年齢は33〜34歳で、ほとんどが「現在は相手がいないが、将来は出産したい」とアンケートに答えている。ただ、病院側は「実際に卵子を採取する人はそれほど多くないのでは」とみる。体の負担が小さくないからだ。病院によると、卵子採取まで最低10日の通院が必要で、排卵誘発剤の接種は吐き気やおなかが張るなどの副作用もある。手術時は全身麻酔をかけて卵巣に針を刺して卵子を採取する。体外受精後、卵子を体内に戻してからもリスクがあるという。

 卵子を凍結保存できても、別の課題もある。

 不妊治療を手がける「はらメディカルクリニック」(東京都渋谷区)は08年から卵子凍結を始めた。当初は、結婚相手はいるが仕事の都合で妊娠できない女性を想定した。ところが、卵子を凍結保存した32人のうち8割以上は30代後半〜40代前半で、大半が相手がいない人だったという。しかも、実際に妊娠を試みたのは一人もいなかったため、12年8月に受け付けをやめた。原利夫院長(59)は「費用が工面できずに捨てるケースも出るだろう。浦安市はどこまで面倒をみるつもりなのか」と疑問を呈す。

 一方で、この試みが妊娠時機を考える機会になればと願う医療現場もある。

 卵子凍結に取り組む医療法人オーク会(大阪市)が説明会に来た女性に「年齢による妊娠率の低下が生じることを知っていたか」とアンケートしたところ、「知っていた」と「知らなかった」の回答が半々だった。船曳美也子医師(55)は「ある程度知識はあっても、年齢を重ね『ここまで難しいとは思わなかった』という人も多い。公的な教育で妊娠や出産を積極的に扱い、相談できる場を設けるべきだ」と主張する。

 浦安のセミナーは今後も月1回開かれる。希望者は病院側と面談し、倫理委員会の審査を経て手術となる。年内にも第1号の卵子凍結が実現する見込みだという。(上田学)

引用元:
卵子凍結保存に助成、少子化対策になる? 浦安市の試み(朝日新聞)