10月13日の午前、ホリー・ジェイコブズさんはカリフォルニア州サンタバーバラの病院で胸部の検査を受けた。検査を終えて着替えていると、放射線医師から診察室に行ってくださいと告げられる。ジェイコブズさんは、「診察室に入ると、コンピューターのモニターに乳房の画像4枚が映し出されていました。白い画像で、まるで雪山のようでした」と話す。その雪山の中に、がんが隠れていたのだ。

 ジェイコブズさんの乳房は乳腺密度が高く、マンモグラフィでは乳房組織が白く映っていた。がん細胞も同じく白く映る。乳腺密度が濃いのは、頬にソバカスがあったり毛髪にクセがあるのと同じように、よく見られる身体的な特徴の1つ。

 こうした乳房のことをデンスブレスト(dense breast)と呼び、女性全体のおよそ10人に4人がこの特徴を持っている。なかでもアジア人女性ではこの割合が極めて高く、5人に4人、じつに80%の女性がデンスブレスト。

 デンスブレストの場合には、乳がん発症リスクが4〜6倍になる可能性がある。しかし本当に危険なのは、デンスブレストの場合、マンモグラフィではがんを見分けにくい。それは、例えるなら「雪山の中で白ウサギを探す」のに似ている。

 GEヘルスケアでブレストヘルスを担当する医師、ジェシー・ジェイコブ氏によると、低線量のX線撮影で乳房を画像診断するマンモグラフィは、今も乳がんスクリーニング検査の王道だ。

 しかし、デンスブレストの女性の場合、脂肪の多い乳房と比べて乳腺の占める割合が多い乳房内部が白く描出されるため、がんのしこりが見えづらくなってしう。「マンモグラフィだけですべてを判断できるとは限らない」とジェイコブ氏。

 この問題をさらに大きくしているのは「デンスブレスト」について知識を持たない女性が多いという事実。GEヘルスケアが世界9か国で約4,500人を対象に実施した最近の調査によると、デンスブレストについて知っている人は全体で31%にとどまり、日本人に至っては1%しか知らないという結果だった。

 デンスブレストに関する認知が進んでいないことは深刻な問題だ。いま米国では、24の州で、マンモグラフィ検査でデンスブレストであることが判明した場合には、その旨を本人に伝えることを義務付ける法律が施行・成立。これに続いて同様の法案を審議中の州も増えている。


デンスブレストと超音波検査

 デンスブレストの場合には、乳腺の影響を受けず、がんが黒く描出される超音波検査(エコー)が適しているという(がん病変が疑われる女性には、併せてMRIや生体組織検査が行われる場合もある)。

 なかでも、GEヘルスケアが開発した乳房用超音波画像診断装置は、デンスブレストの女性のスクリーニング検査に関して、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けた技術。

 日本では今、厚生労働省が日本人女性を対象とした大規模調査に乗り出し、マンモグラフィと比較して超音波検査でどのくらい乳がんが発見できるのかを検証するプロジェクト「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(J-START)」を進めている。

 サンタバーバラに住むジェイコブズさんは自分の乳腺密度が高いことを知り、マンモグラフィの直後に超音波検査の予定を入れた。ジェイコブズさんは自身のブログ「ザ・シルバー・ペン」に次のように書いている。「検査技師の女性はとてもおしゃべり好きで親切な方でした。ところが話をやめて黙ってしまったのです。これは良くないサインだと分かりました」

 ジェイコブズさんは今では乳がんを克服し、この病気に関する理解促進のための活動をしている。「“知らない”ことを知ることはできないんです。私は元マラソン選手で、がんのリスク因子に当てはまらず、がんの家系でもありませんでした。だから、診断を受けた時はショックでした。自分の身体の声に耳を傾けなければなりません。何かおかしいと感じたら、きっと何かがおかしいんです。疑問の答えが見つかるまで、あらゆる方法を試してみてください」と。





引用元:
乳がん発症リスクが高く、アジア人の80%が該当する「デンスブレスト」とは?(ニュースイッチ)