出産直後の女性たちが体を休め、育児の悩み相談などもできる滞在型の産後ケアサービスを提供する民間施設が増えている。背景には、核家族化や出産年齢の高齢化で母親たちが孤立しがちな社会状況がある。少子化対策に加え、虐待や産後うつを防ぐ観点から、国や自治体の支援も徐々に広がっている。

 ■沐浴練習・先輩ママに相談も

 「ありがとうございました」。福岡県小郡市の田園地帯に立つ古民家を出て、生後17日の長女を抱いた福岡市在住の女性(30)が笑顔で車に乗り込んだ。

 この古民家が、産前産後サポートセンター「心ゆるり」だ。数時間〜24時間、和室の個室で過ごし、母乳マッサージを受けたり、沐浴(もくよく)を練習したり。食事やおやつも提供され、育児の悩みを子育て経験のあるスタッフに相談もできる。

 女性は実家が遠く、夫と2人で子育てに奮闘中だ。この時は夫が夜勤のため不在で不安に感じ、24時間利用した。「夜を過ごせる所があって助かった。2人きりだと煮詰まっていた」

 「心ゆるり」の豊田晴子代表理事は助産師で、もともと病院勤務だった。近年は産後の入院日数が短くなったうえ、核家族化や出産年齢の高齢化が進んだことで、孤立したまま親や周囲のサポートが受けられない人が増えていると感じ、2013年に設立した。

 「昔から床上げは21日と言われる。母子が向き合う時間をとれれば信頼関係が築け、子どもの人格形成にもつながる」と豊田さん。特に子宮が元通りになる産後6〜8週間まで(産褥〈さんじょく〉期)はホルモンバランスも不安定で、「母親が一人で不安を抱え込めば、虐待や産後うつにもつながりかねない」と指摘する。

 実際、厚生労働省によると、13年度に心中以外の虐待が原因で死亡した全国の子ども36人のうち44%の16人が0歳児で、16人に対する「主たる加害者」が実母だった。社会保障審議会の専門委員会は10月8日、この結果を示し、支援が必要な母親らの把握と支援の強化を国や自治体に提言した。

 こうした背景もあり、滞在型の産後ケア施設が全国的に増えている。九州でも福岡市東区の真田産婦人科麻酔科クリニックが昨年6月、産後ケアセンター「マリィのおうち」を設立。熊本市では昨年7月、産後ケアを主とした由来助産院が開院した。「心ゆるり」の2号店も今年10月、佐賀県みやき町に開設された。

 産後ケアに長年携わる鹿児島県助産師会の下敷領須美子代表理事は「出産の現場は病院に移り、かつて分娩(ぶんべん)と産後ケアを担った有床の助産院は減った。だが、ここにきて産後ケアの重要性が見直され、特化した施設や助産院が出てきた」と最近の変化を話す。

 ■利用料「行政支援を」

 多くの市町村は保健師らによる母子の家庭訪問事業に取り組むが、短時間の訪問で状態を把握し、助言することは難しい。一方で、民間の滞在型サービスには助産師らの人件費などで利用料が高額になりがち、という課題がある。

 6時間の日帰りサービスを提供する「マリィのおうち」は今年1月以降、一定条件を満たした人の利用料を1万3千円から5千円に下げた。1カ月の利用者は1桁台から20人ほどに増えたが、運営は赤字。内川加代子センター長は「行政の支援が必要だ」と話す。

 行政側にも、必要性を認め、後押しする動きが出ている。厚生労働省は昨年度、「妊娠・出産包括支援モデル事業」として産前産後のケアや相談を行う全国29市町村に助成。九州では宮崎市が助産院に委託し、日帰りのケア(利用料2千円)を自己負担500円で受けられるようにした。

 厚労省は今年度、この事業を拡充。長崎県は7月から、訪問と日帰りや宿泊での施設滞在型のケアを選べるモデル事業を県助産師会に委託し、利用者の自己負担を1割にした。

 九州では鹿児島市が先駆的に滞在型ケアに取り組んできた。1996年から県助産師会が運営する鹿児島中央助産院に委託し、利用者の負担は1日1万8515円の料金の半額で済む。今年度は委託先を3カ所に増やした。一方、鹿児島県は今年度、利用者に助成する市町村に費用の2分の1を補助する事業を始めた。

 福岡市も周囲の支援を受けにくい人を対象に検討はしているが、市内に受け皿となる助産院がないなど課題が多いという。産前産後の家事支援事業を手がける同市の門谷舞さん(34)は市に利用者への助成を求め、「本当に必要な人が利用できるように支援すべきだ」と訴える。


引用元:
広がる産後滞在ケア 虐待・孤立・うつ防ぐ(朝日新聞)