前回、パピローマウイルスと子宮がんについてお話をしました。今回は、精液にパピローマウイルスが感染した時の妊娠や流産についての研究論文(Fertil Steril. 2015 Oct 6. pii: S0015-0282(15)01935-4. doi:)のご紹介です。
パピローマウイルスは一生のうちでほぼ全員が感染することがある一般的なウイルスです。でもしばらくするとほとんどの場合、経過を診ている間に消失します。ですので、このウイルスに感染しても、しばらく待っていれば、ウイルスがいなくなり、また、この消失した時期であれば、妊娠には影響しません。問題は、このウイルスに感染している時期に、妊娠を試みた時や妊娠した時の影響です。
精液のパピローマウイルス感染検査で感染がないカップル172組と感染があるカップル54組に治療を行いました。最初の6カ月は診断と経過観察期です。この間、感染なしのカップルで14組(8.1%)が自然妊娠しました。感染のあるグループでは妊娠したカップルはいませんでした。
その後12カ月、人工授精や顕微授精の治療を行ったところ、感染なしのグループでは、人工授精で60組中12組(20.0%)、顕微授精で98組中40組(40.8%)が妊娠しました。感染ありのグループでは、人工授精で21組中2組(9.5%)、顕微授精で98組中40組(18.2%)が妊娠しました。
また、感染なしのグループで妊娠した66組のうち出産または妊娠継続しているカップルは55組(83.3%)、流産したのは11組(16.7%)でした。感染ありのグループで妊娠した8組のうち出産または妊娠継続しているカップルは3組(37.5%)、流産したのは5組(62.5%)でした。
以上の結果より、パピローマウイルス感染があると、妊娠しにくく、また妊娠しても流産になりやすいことがわかります。この理由として、感染したカップルの胚(受精卵)では細胞のなかでもウイルスが増殖し、胚が発育しないことや、胚が子宮に着床して胎盤が形成されていくときに胎盤形成に関わる細胞中にもウイルスが増殖し、胎盤形成がうまくいかずに流産になるという原因などが考えられています。
ウイルス感染陽性でも6カ月に約60%の消失があるので、若いカップルでしたら、自然にウイルスが消失するのを待つのも一案かもしれません。高齢でウイルスの自然消失を待てないカップルでは、特殊な方法で精子を洗浄するとウイルスを除けるという報告もあるそうです。
ふつうの精液検査の評価項目のうちで、ウイルス感染を疑う項目は精子の運動率だけのようです。精液のパピローマウイルス感染の検査は保険もきかず、一般的ではありませんが、将来、精子運動率が低く、なかなか妊娠しない場合、調べてみてもよい検査になると思います。
引用元:
精液のパピローマウイルスと妊娠、流産(朝日新聞)