善意で提供された母乳を保存し、必要とする赤ちゃんに提供する国内初の母乳バンクが、東京の大学病院にある。未熟な早産児がかかりやすい深刻な病気のリスクを減らすなどの効果から、バンクは多くの国で普及している。日本には根付くのだろうか。

 ◆16人が提供

 東京都江東区にある昭和大江東豊洲病院。その一室に据えられたフリーザーに、低温殺菌済みの母乳が、小さな容器に分けて保存されていた。

 「1年で延べ16人のお母さんが無償提供してくれました」。昨年9月にバンクを開設した小児内科の水野克己教授が説明する。母乳は新生児集中治療室(NICU)に入った早産児ら19人に与えられた。「くれる人」も「もらう子」も同病院にかかっている人に限定し、水野さんが厚生労働省研究班の一員として運用上の課題を検討している。

 母乳の優れた点は多いが、中でも水野さんが重視するのは早産児に多い「壊死(えし)性腸炎」のリスク低減だ。腸が血流不足で深刻な損傷を受ける病気で命にも関わる。特に1500グラム未満で生まれた子はリスクが高いとされ、消化が良く免疫成分も豊富な母乳を生後なるべく早く与えるのが望ましい。しかし、母親の病気やさまざまな理由でそれが不可能な場合もある。

 ◆もらい乳

 そんなとき、NICUではかつて、他の母親からの「もらい乳」がよく行われてきた。だが、母乳の効用に詳しいベテラン新生児科医の奥起久子さんによると、その頻度は各種の調査でも減ってきている。理由は母乳を介した病気感染の懸念。はっきり禁止している病院もあるという。

 それでも「母乳で状態の改善が見込まれる子はいる。完全にはなくせない」と、ある大学病院の医師は話す。実際、水野さんらが全国のNICUに昨年尋ねたところ、126施設中32施設(25%)が、もらい乳を与えていると答えた。

.エイズや肝炎、成人T細胞白血病などの原因ウイルスは通常の妊婦健診で調べるし、母乳をもらう際に再度検査する施設も多いとみられるが、統一的な安全基準はない。

 一方で、出生時の体重が2500グラム未満の低出生体重児は増えている。1500グラム未満の「極低出生体重児」も微増傾向で、厚労省人口動態統計によれば年に8千人前後が生まれる。

 水野さんは「日本の壊死性腸炎は極低出生体重児の1・6%程度とされるが、それでも年100人を超す。安全な母乳を常備したバンクが整備されれば、その一部でも救えるのでは」と言う。

 ◆課題

 海外では欧州や北米、ブラジルをはじめ多くの国に母乳バンクがある。広域をカバーするものから病院単位まで、規模はさまざまだという。

 水野さんらは主に北米の基準に従い提供者を登録。喫煙者は除外し、各種ウイルス検査のクリアが必要で家族の感染症もチェック。母乳は専用装置で低温殺菌し、提供者の記録は赤ちゃんが21歳になるまで保存する。

 低温殺菌装置は今後普及する見通しだが、検査や記録、連絡などの業務量は多く「個々の施設で対応できるかどうか」と水野さんは感じる。かといって、どこかに集約するとすれば、殺菌済み母乳の輸送をどうするかなど、別の課題も考える必要が出てくる。

 日本新生児成育医学会理事長の楠田聡・東京女子医大教授は「医学的に必要性が高い早産児に、安全な母乳を与える仕組みは必要だ。ただ、大きなバンクを構想する前に、まずは昭和大の経験を基に、施設内部での母乳提供の安全性を確保する共通手順を決めるのが現実的ではないか」と話している。

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引用元:
日本に根付くか母乳バンク 早産児を救えると期待(産経ニュース‎)