従来の日本における子宮頸(けい)がん検診では、子宮頸部の細胞の形を調べる「細胞診」が主流だった。しかし現在は、子宮頸がんの原因ウイルスであるHPV(ヒトパピローマウイルス)感染の有無を調べる「HPV検査」を併用する検診の導入が各自治体で始まっていることをご存じだろうか。

ロシュ・ダイアグノスティックスはこのほど、「日本における子宮頸がん検診の現状とHPV16 / 18型検出の意義」をテーマにプレスセミナーを開催した。同セミナーでは、松江市立病院の紀川純三院長より、日本における子宮頸がん検診の現状、中でもHPV併用検診の重要性および有用性について語られた。

シンクロする、出産年齢と子宮頸がん発症年齢のピーク
子宮がんには、子宮の奥(子宮体部)にできる「子宮体がん」と子宮の入り口(子宮頸部)にできる「子宮頸がん」の2つがある。子宮体がんが閉経後の50代女性に多いのに対し、子宮頸がんは30〜40代をピークに、近年は20代で急増していることも報告されている。

「子宮頸がんの発症年齢である20〜40代は、出産年齢のピークと重なります。晩婚化に伴う高齢出産の増加を考慮すると、子宮頸がん予防のさらなる対策強化が必要です」と紀川院長。

最新のデータでは、世界における子宮頸がんの年間発症数は53万人、年間死亡数は27万人(2002年調査)。一方、日本における年間発症数は2万7,850人(2010年調査)、年間死亡数は2,712人(2012年調査)と報告されている。日本では、1日に7〜8人の女性が子宮頸がんで命を落としているということがわかる。

原因は主に性交渉によるHPVの感染
子宮頸がんの原因は、HPVの感染であることが明らかになっている。HPVは、主に性交渉によって女性の多くが一度は感染するウイルスだが、大半は自身の免疫力により体の外へ自然排除される。しかし一部の人は持続感染し、子宮頸部の表面(上皮)の細胞に異常が生じる「異形成」(がんの前段階である「前がん病変」ともいわれる)を起こす。異形成は状態によって次のCIN1〜3のグレードに分類される。がん化した場合、がん細胞が子宮頸部にとどまっているものを「上皮内がん」、基底膜(上皮の下にある部分)を超えて子宮頸部外まで侵食したものを「浸潤がん」という。

■子宮がんの進展
・CIN1(軽度異形成): 異型細胞が上皮内の1/3を占める
・CIN2(中等度異形成): 異型細胞が上皮内の2/3を占める
・CIN3(高度異形成): 異型細胞が上皮内全体におよぶ
・上皮内がん: がん細胞が上皮内にとどまっている
・浸潤がん: がん細胞が基底膜を破れ出て、転移の可能性がある
※CIN:Cervical Intraepithelial Neoplasiaの略


日本の検診率が低い理由
OECD(Organisation for Economic Cooperation and Development: 経済協力開発機構)加盟国における子宮頸がんの受診率(「OECD Health Data 2013」より)を比較すると、第1位はアメリカで85.0%。次点には、ドイツ(78.7%)、イギリス(68.5%)、オランダ(66.1%)といった欧米諸国が続き、いずれも65.0%以上の受診率を誇っている。一方、アジアで見ると、韓国は48.4%、日本はそれよりも低い37.7%にとどまるのが現状だ。

世界に比べて日本の受診率が低い理由について、紀川院長は「医療保険制度の違い」をあげる。

「日本とアメリカをはじめとする諸外国とでは、医療保険制度などのバックグラウンドが違いすぎます。日本は国民皆保険制度によって、全国民の医療保険が国から保障されていますが、それは恵まれた話。例えばアメリカでは、民間の保険会社が提供する保険に入る必要があり、検診を受けないと保険料が高くなるなどのペナルティーもあります。検診への関心度にも大きく関わってくるでしょう」。

「細胞診」と「HPV検査」の併用で見逃しを限りなくゼロに
冒頭で述べた通り、子宮頸がん検診には、「細胞診」と「HPV検査」の2つがある。どちらも子宮頸部の細胞をブラシなどで採取して検査する方法。細胞診は、採取した細胞をスライドにうつし、形の変化を顕微鏡で確認する検査だ。日本では従来、細胞診の単独検査が広く行われてきた。細胞診は特異度(※1)が高いことがメリットだが、感度(※2)には限界があり、見逃しの危険性もあるという。

一方のHPV検査は、採取した細胞にHPVが感染しているかどうかを専用機器で調べる方法で、欧米では主流とされている。こちらは感度が高いぶん、特異度はやや劣るのが特徴とのこと。

※1 感度: 精密検査の必要のある症例を要精査(詳しく調べる必要がある)と判定できた率
※2 特異度: 精密検査の必要のない症例を精査不要と判定できた率

そして今、がんの見逃しを減らす鍵となるのが、細胞診とHPV検査をセットで行う「併用検診」だ。併用によって互いの欠点を補うことで、見逃しのない検診が可能になるという。

この有用性を示すデータとして、2012年にオランダで行われた「HPV併用細胞診と細胞診の無作為比較試験(POBASCAM)」がある。同試験では29〜56歳の女性4万4,938名を対象に、細胞診(単独)とHPV併用細胞診の両グループにおいて、初回検査の5年後にHPV併用細胞診を実施。なお、HPV陽性の場合は、6カ月後と18カ月後にHPV併用細胞診を行い、HPV陽性が続いたり、細胞診異常例が見られたりする場合は、コルポスコピー(腟拡大鏡検査)を行った。

その結果、HPV併用細胞診を受けたグループは、初回検査時にCIN2以上の病変が多く発見され、5年後の併用細胞診ではCIN3以上の病変、浸潤がんの発見が減少した。このことから、HPV併用細胞診は見逃しが少なく、病変を早く発見して治療につなげられることがわかったとしている。

また、日本においても、細胞診とHPV検査の併用検診は増加傾向にある。実施する自治体数は、2012年ではわずか46カ所だったのが、2014年には120カ所まで拡大した。現在、全国市町村数1,790のうち約6.7%で行われている。

HPV検査は、日本人の子宮頸がんに多く見られるHPV16型・18型も検出
HPVはウイルスの型によって性質が異なり、HPV16型・18型は高率かつ早期に子宮頸がんに発展するハイリスク型といわれている。

「HPVのうち30〜40種類の型が性交渉によって感染し、そのうち13〜15種類の型が子宮頸がんに関与します。日本人の子宮頸がんの約8割がHPV16型・18型感染であり、特に20・30代はその率が高くなっています」。

HPV検査はハイリスク型の検出ができるため、前がん病変の段階で見つけることが可能といわれている。つまり、細胞診の結果が正常であっても"100%がんがない"とはいえず、HPV検査の併用により細胞診の単独検査では見落とされがちなHPV16型・18型も選別可能となるということだ。

国内で承認されているHPV検査薬は、第一世代のハイリスク型HPV一括検査と、第二世代と呼ばれるハイリスク型HPV一括検査の結果と同時に、特にリスクが高いHPV16型・18型に関する結果が個別に得られる検査がある。2014年4月25日には、米食品医薬品局(FDA)が子宮頸がん検診の一次スクリーニングのツールとして、25歳以上の女性を対象に第二世代検査薬の一つを導入することを承認し、この検査薬はアメリカ初で唯一のHPV一次スクリーニング用検査となった。

なおアメリカでは、子宮頸がん検診のガイドラインとして、「米国3学会合同検診コンセンサスガイドライン2012」が発表され、30歳以上の女性に細胞診とHPV検査の併用検診を推奨している。年齢別の推奨検査法は下記のとおり。

■「米国3学会合同検診コンセンサスガイドライン2012」による推奨検査法
・21歳未満: 検査せず
・21歳〜29歳: 細胞診のみ(3年間隔)
・30〜65歳:
(1)HPV検査と細胞診の併用(5年間隔を推奨)
(2)細胞診のみ(3年間隔を容認)
・65歳以上: 検査せず(前回の検診で陰性の場合)
※65歳でセクシャルパートナーが変わらなければ感染しないという考え

そして2015年1月18日、米主要2学会は、一次スクリーニングのHPV検査は、細胞診の単独検査、または細胞診とHPV検査の併用検診の代わりとなる有効な検査であることを支持した暫定ガイダンスを発表。一次スクリーニングがHPV検査単独になる可能性もあり、今後の動向から目が離せない。

日本では出産年齢の女性に子宮頸がんが増加しているという現実がありながら、検診率もHPV検査に対する認識もまだまだ低い。しかし、大切な子宮と命を守るためには、正しい情報を収集し子宮頸がんの予防と向き合うことが必要だ。そして、今後さらに多くの自治体でHPV検査が導入され、併用検診が一般的になることを期待したい。



引用元:
子宮頸がんの検診率、アメリカ85%、日本38% ‐ 大差の理由と世界基準とは(マイナビニュース)