女性芸能人の一人がご自身の乳がんに関する情報を明らかにし、乳がんに対する社会的関心は高まっているように思います。

乳がん検診に関しては、私自身いくつか記事を書きましたが、あらためて検診(スクリーニング)の有効性、社会的インパクトなどに関してまとめたいと思います。

http://kimuramoriyo.blogspot.jp/2010/04/blog-post.html
(乳がんスクリーニングは効果があるかVol1)

http://kimuramoriyo.blogspot.jp/2010/05/vol2.html
(乳がんスクリーニングは効果があるかVol2)

http://kimuramoriyo.blogspot.jp/2010/06/tbs.html
(「乳がん検診、TBSに医師らが中止要望」はどんな意味があるが)

折しも、米国予防医療サービス専門作業部会(US Preventive Services Task Force:以下「USPSTF」)が、乳がんスクリーニングに関して、2015年4月に改定を出したところです。

http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/RecommendationStatementDraft/breast-cancer-screening1%E2%80%8E
は、世界中の乳がん検診における有効性に関する論文を精査し、定期的に改定を出しています。というのも、乳がん検診における有効性(マスとして死亡率をどの程度低下させるか)、また、有効だったらどのようなスクリーニング手段が良いか、また、そのスクリーニング検査によって引き起こされる負のリスク(疑陽性率など)が、完全に解明されていないためです。

最も大きな影響を世界の乳がん検診政策に与えたものの一つが、2009年のガイドライン改定です。前述した記事にもありますが、それまでは有効性が高いとされていた、歳代のマンモグラフィによる乳がん検診が費用効果的に高くなく、国民全体に対する検診スクリーニングとしては推奨されない、というのが大きな改訂のポイントでした。マンモグラフィによる検診頻度も、1〜2年に1回から、2年に一度に変更されたことも、世界の医学会に大きなインパクトを与えました。

今回の2015年4月の改定はさらに厳しいものとなっています。要約すると、「50〜74歳のマンモグラフィによる、2年に1度の検診を勧奨する」というもので、今まで全体スクリーニングの対象となってきた40〜49歳の女性に関しては、自己判断で検査を受けるべきとしています。その背景としては、現在までのエビデンスの見直しがあります。

概要は以下の通りです。

1.マンモグラフィが、39〜69歳までの乳がんによる死亡率を減少させたというエビデンスは不十分。

2.マンモグラフィによる疑陽性(本当は乳がんでないのに乳がん疑いとして判定される事)、さらなる画像検査を要することは少なくない。

3.医師による視触診ならびに自己チェックによる利点は示されていない。

我が国では、年間約8万9千人が新しく乳がんにかかっています。そして、平成25年厚生労働省の統計によれば、約1.3万人(10.5人/100,000)が乳がんにより死亡しています。
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20150428.html

どういった原因で乳がんにかかるのかは、全て解明されてはいませんが、遺伝、人種、生活習慣、妊娠出産の有無などがかかわっているといわれています。

日本では、がん検診という制度があり、この歴史は昭和30年代にさかのぼります。前述した米国の動きなどから国はその制度の見直しを始めており、平成27年9月には、「がん検診の在り方に関する検討会中間報告書〜乳がん検診および胃がん検診の検診項目などについて〜」をまとめています。

厚労省の乳がん検診項目に関する提言としては、以下の通りです

1.マンモグラフィによる検診を原則とする

2.視触診については死亡率減少効果が十分ではなく、精度管理の問題もあることから推奨しない。仮に視触診を実施する場合は、マンモグラフィと併用することとする。

3.超音波検査については、特に高濃度乳腺の者に対して、マンモグラフィと併用した場合、マンモグラフィ単独検査に比べて感度及びがん発見率が優れているという研究結果が得られており、将来的に対策型検診として導入される可能性がある。しかしながら、死亡率減少の効果や検診の実施体制、特異度が低下するといった不利益を最小化するための対策などについて、引き続き検証していく必要がある。

4.対象年齢:40歳以上とする

5.検診間隔:2年に1度とする

今まで論じたように、乳がん検診に関しては、「できるだけ早い年齢から年に一度の検診」から、「限られた年齢層をターゲットとした、きめられたスクリーニングツールでの検診」という流れに変わっています。

がん検診(スクリーニング)は、国や地方自治体の税収、すなわち、私たちの税金で賄われます。それ故、全体として費用対効果がない検査を導入するのは、意味がありません。また、マンモグラフィによる乳がん検診で永らく指摘されているのは、その疑陽性率の高さです。

もし、若い年代に、間違って「乳がん疑い」と診断されれば、たとえのちに乳がんでないと判明したとしても、それが判明する間、大きな不安を持って待つことになります。また、次の年も、「もしかしたら、乳がんが発生しているかもしれない」といった不安が大きくなり、その精神的影響は大です。

日本のがん登録制度は、欧米の大規模コホートなどと比較するとその網羅性から、信頼度が低いと言われています。このがん登録制度を充実させることは不可欠です。また、今まで、法に基づいて行われてきた、健康診断(がん検診も含む)におけるデータは、世界に類を見ない包括的なものです。こうしたメガデータを活用し、未だ答えが出ていない、「乳がん検診はやったほうが良いのか。そうであれば、どんな人にどういったやり方で行うのか」という命題に大きく貢献することになります。

国は、こうしたデータの開示を速やかに行うとともに、世界中の研究者に解析できる環境を提供させることが必要です。それがひいては、国民個人の利益につながるのですから。

引用元:
乳がんスクリーニングは効果があるか vol.3(BLOGOS)